魔王と王女の物語
水晶の魔力を吸った魔法剣は聖石の加護を受けた時とさほど変わらないほど巨大な魔力をその刀身に受けて、光り輝いていた。


「…すごい……」


「リ、ロイ…」


――水晶の魔力を引き出し、なおかつ身体も精神も引っ張られてゆくような感覚に抗い続けて気力も体力も消耗したティアラが膝から崩れ落ちると、


リロイは軽いティアラの身体を抱き上げて、少し離れた木陰から監視していたグラースを振り返った。


「あの家ではティアラ王女を休める場所がありません。近くに村があるようなので、そこでティアラ王女を休ませます」


「…私もついて行く」


「いいですよ。ですが…部屋は離れたところに取って下さい」


――それが何を意味するか…

グラースは首を捻ったが、腕に抱かれたティアラはリロイが約束を守ってくれるのだと知って、赤くなる顔を両手で隠した。


…あんなお願い、王女の自分がするべきではなかったのに…


『気高くありなさい』


母から常にそう言われていたのに、交換条件を持ちかけて男に溺れるなんて――


「リロイ…あの約束は、忘れて下さい…っ」


「…僕は白騎士です。約束は必ず守ります」


――その後黙ってしまった2人と監視を続ける1人は水晶の森を出て馬に乗るとすぐ近くの村へ着いた。

正面にある女神像のある噴水の広場を横切り、明け方にも関わらず営業していた宿屋を訊ねて驚かれたが、

2つ部屋を取るふりをしていつも角部屋を選ぶグラースとは通路を隔てて反対側の部屋を取ると、ティアラを運び込んだ。


「…怖いですか?」


「怖いです…。リロイ…あなたはラスに全てを捧げるのでは…」


ベッドにティアラを横たえさせてマントを外し、鎧を脱ぎながらリロイは少しはにかんで、真実を告げた。


「僕はラスの所へ戻ります。だけどあなたとの約束は守ります。ティアラ王女…いえ、ティアラ…あなたの純潔を奪う罪を…お許しください」


ローブに手がかかり、薄暗く狭い部屋で、秘密の情事が繰り広げられる。


――ラスを愛しているのにティアラを抱くリロイ――

ラスに罪悪感を抱きながらもリロイを諦めきれないティアラ――


指が、身体が絡み合う。
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