魔王と王女の物語
ラスを追ってきた魔王は早速ラスを抱っこして指を鳴らし、馬車を出現させた。


「次はどこへ?」


「グリーンストーン王国…じゃなかった。グリーンリヴァーだ。ちょっと南下するぜ」


「何をしに行くんだ?」


「チビが喜ぶようなもんがいっぱいあるからさ。…なんだ文句あんのか?」


とことんラス優先のこの旅はグラースにとっては苦痛でもなく逆に楽しくて、にこにこしながらコハクを見上げているラスの頭を撫でた。


「そこに寄ったらお前の城なんだな?」


「ああ。…触んなって」


手を払われてしまって笑いを噛み殺していると、ティアラとリロイが合流して、ラスが明るく声をかけた。


「帰って来なかったから心配したんだよ?」


「…ん、ごめん」


にこ、と笑って白馬に騎乗すると先に行ってしまい、無言でグラースがそれに続いた。

ラスは抱っこされたまま馬車に乗り込み、無言のままのティアラの胸を…急にわし掴みにした。


「きゃ、きゃあっ!?ラス!?」


「やっぱりすっごく大きい…。お師匠様もおっきかったの」


「お、お、俺はっ、チビのが触りたいなーっ」


…なるべく自然に言ったつもりなのに噛みまくってしまった魔王はラスに意識されてしまって膝から降りられてしまい、


がっくり。


「ほんとに心配したの。でもリロイとグラースが一緒だったから大丈夫だと思ってたよ」


――無邪気に笑いかけるラスに罪悪感がどんどん募ってゆく。


だがラスは、魔王の手を選んだ。


魔王はラスの手を絶対に離さないだろう。


…だから、傷心に暮れるリロイの傍に居て慰めてやれるのは、自分しか居ない。


「俺の天使ちゃん、なんにもしないからこっちに来なさい。ほら、ほら!」


「やだっ!きゃんっ」


長い腕を伸ばして無理矢理ラスを膝に乗せるとご満悦になった魔王がラスの頬をぺろっと舐めながら、唇を噛み締めるティアラを見つめた。


…約束通り、ラスにばらすつもりはない。


自分たちは自分たちの物語を。

リロイとティアラは違う物語を。

今後は道を分かつのだ。


「早くくっつけよ」


一応、忠告。
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