魔王と王女の物語
翌朝ラスが森の中の小川で顔を洗い、その傍らにはもちろんコハクが居て甲斐甲斐しくラスの髪を梳かしてやっていたのだが、

そこにリロイが現れて、やわらかく笑いかけてきた。


「おはようラス。よく眠れた?」


「うん。野営の時はいつも朝まで起きてくれててありがとう」


…実際はリロイが起きていなくともコハクが不可視の結界を張っているために魔物に襲われないのだが、

そういうことはあまり口に出さない魔王はリロイとラスがちょっと会話を交わすだけで、むかっ。


「チビ、もう戻ろうぜ。俺特製のスープを作ってやるよ」


「うん、でもリロイ疲れてない?マッサージしてあげよっか?」


「チビっ、マッサージなら俺にしてくれよ。してほしいとこがあんだけど」


「うんいいよ。どこを?」


「じゃ、じゃあ森の奥行こうぜ」


色ぼけ魔王はラスを抱っこし、顔を洗っているリロイに赤い瞳を細めた。


「ついて来んなよ」


「…」


――不気味だ。

いつもは食ってかかってくるのにこっちを見ようともしない。


「リロイ…どこか痛いの?いつもと違うよ、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。少し飛ばそうね、ティアラ王女やラスを休ませてあげたいから」


――自分の名前より先にティアラの名が出て、それを過敏に感じ取ったラスが少し表情を曇らせると、

そういうのを恐れていた魔王はラスを攫うようにしてグラースたちの居る火の傍へと足早に歩き出した。


「コー?マッサージは?」


「もういい。気分じゃなくなった」


…魔王、膨れっ面。

端正な美貌は玩具を奪われた子供のように膨れていて、ラスは尖った唇をつんと突いた。


「…なんだよ」


「コー、赤ちゃんみたい。拗ねてるの?怒ってるの?機嫌が悪いの?」


「拗ねてるし怒ってるし機嫌も悪いの!チビがよそ見ばっかすっから気が気じゃねえよ。早く城に着いて、そんでアレもしてコレもして…」


妄想で不安をカバーしようとするコハクの首に腕を回して抱き着くと精一杯可愛らしい声色で囁いた。


「私はコーのものだよ。信じてね」


「…爆発する!!!!」


所詮は、色ぼけ。
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