魔王と王女の物語
コハクの城がどんどん近付いてくる――

ラスはそれが嬉しかったが、なにぶん最北端の地は寒く、雪こそ降ってはいなかったが、空模様は気味が悪いほどに真っ黒だった。


「コー…本当に雷は落ちないんだよね?」


「チビが怖がると思って落ちないようにしてあるし」


長い脚を組んで外を見ているコハクの頬をむにっと引っ張ると、今回も馬車内には居ないティアラを御者台から指した。


「リロイは良くなったと思う?ティアラ、すごく疲れてる顔してたけど倒れたりしないよね?」


「平気だろ。てかチビ、イメトレの邪魔すんなよ。まずアレをして…そんでコレをして……ふふふふふ」


不気味な笑い声を漏らしてにやついている魔王は最高に気持ち悪い。

そういう時のコハクは無視するに限るので、ラスは窓際に寄ると荒廃した大地に目を遣った。


「お花も咲いてない…木は枯れてる…動物も居ない…それに寒そうだしコーのお城って…針の上に立ってるよ?」


針山の上に、ゴシック様式のこれまた屋根の尖った建物が列を成して建っている。

きっと晴れた空の下で見るととても綺麗な城のはずなのに、空はラスの嫌いな雷雲が垂れ込めていた。


「独りになりたい時はここに居たんだ。まあ、ベルルも居たけど」


「そういえばベルルを見ないけどどこに行ったの?」


――実はまだラスに話したくない真実を伝えていない魔王は腕を引っ張ってラスを引き寄せると膝に乗せて、猫の喉をくすぐるようにラスの喉を長い指でくすぐった。


「ベルルは先に城に行ってる。なあチビ…その…えーと…」


「コー、どうしたの?あ、わかった!おし…」


「ちがーう!まあ、小僧をやっつけた後でいっか」


「コーのこと信じてるよ。リロイを殺したりしないでね」


ぎゅっと抱き着いてきたやわらかい身体に腕を回してため息をついた。


自分は生まれた時からラスの影だったけれど、

リロイもラスが物心ついていない頃から傍に居て、多忙な両親の代わりにラスと一緒に居てくれたかけがえのない男なのだ。


「俺は痛い目に遭ってもいいわけ?」


「コーは強いからそうならないでしょ?」


誉められて、有頂天。
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