魔王と王女の物語
コハクの決意
聖歌――
その名に等しく、魂を清め、魂を鼓舞する“戦歌”とも呼ばれる。
リロイもコハクも徐々に気が高揚し、互いに距離を保ったまま対峙している。
コハクは魔法使いだ。
距離など無いに等しく、リロイの敗北は確実に思えた。
「グラース…止められないの?グラースは強いから止められるよね?!」
眉根を寄せて唇を震わせるラスが何度もグラースのマントを引っ張って訴えかけるが、グラースは首を縦には振らなかった。
「…お前が止められないんだから、私が止められるはずがない。ラス…血を見る心構えを。嫌ならここから出た方がいい」
「戻って来たらリロイかコーが死んでるの!?やだ!絶対いや!」
…ラスの悲鳴がリロイとコハクの心に鐘を鳴らすかのように響いていた。
女を巡る戦い。
陳腐な響きだが、この可愛くて無垢な王女を手に入れたくて、自分たちはここまで頑張ってきたのだから…後には引けない。
「よう小僧。ちなみに俺って詠唱破棄できるんだけど。一発で勝負はつくぜ」
「じゃあやってみろ。僕だって…簡単には死なない」
決意漲る低い声。
瞳は炯炯と光り、頬を緊張に強張らせるその姿が…
ラスの父のカイと重なった。
――苦笑が込み上げて来て俯くと、ラスからまた悲鳴が上がった。
「コー、危ないよ!」
「へーきだって。油断なんかぜってぇしねえし。それよかチビ…お前が巻き添え食らう方が俺は怖い。もうちょっと離れてろって」
そう注意すると…
逆にラスは脚を踏ん張って仁王立ちになると精一杯睨みつけてきた。
「やだ!私はここに居るんだから!」
「かーわいいなあ、すぐ済むから待ってろよ」
聖歌が反響して響き渡り、リロイの魔法剣が仄かに青白い光を生み出した。
…そんな光景にも覚えがある。
カイの時も…
「腕が無くなったって脚が無くなったって…僕はお前に向かうことをやめない。お前は魔王。世界に脅威をもたらす者。…ラスに脅威をもたらす者!」
「…ま、そうだな、違いねえ。じゃ…やるか」
「コー!リロイ!」
ラスの悲鳴が聖歌に聴こえた。
その名に等しく、魂を清め、魂を鼓舞する“戦歌”とも呼ばれる。
リロイもコハクも徐々に気が高揚し、互いに距離を保ったまま対峙している。
コハクは魔法使いだ。
距離など無いに等しく、リロイの敗北は確実に思えた。
「グラース…止められないの?グラースは強いから止められるよね?!」
眉根を寄せて唇を震わせるラスが何度もグラースのマントを引っ張って訴えかけるが、グラースは首を縦には振らなかった。
「…お前が止められないんだから、私が止められるはずがない。ラス…血を見る心構えを。嫌ならここから出た方がいい」
「戻って来たらリロイかコーが死んでるの!?やだ!絶対いや!」
…ラスの悲鳴がリロイとコハクの心に鐘を鳴らすかのように響いていた。
女を巡る戦い。
陳腐な響きだが、この可愛くて無垢な王女を手に入れたくて、自分たちはここまで頑張ってきたのだから…後には引けない。
「よう小僧。ちなみに俺って詠唱破棄できるんだけど。一発で勝負はつくぜ」
「じゃあやってみろ。僕だって…簡単には死なない」
決意漲る低い声。
瞳は炯炯と光り、頬を緊張に強張らせるその姿が…
ラスの父のカイと重なった。
――苦笑が込み上げて来て俯くと、ラスからまた悲鳴が上がった。
「コー、危ないよ!」
「へーきだって。油断なんかぜってぇしねえし。それよかチビ…お前が巻き添え食らう方が俺は怖い。もうちょっと離れてろって」
そう注意すると…
逆にラスは脚を踏ん張って仁王立ちになると精一杯睨みつけてきた。
「やだ!私はここに居るんだから!」
「かーわいいなあ、すぐ済むから待ってろよ」
聖歌が反響して響き渡り、リロイの魔法剣が仄かに青白い光を生み出した。
…そんな光景にも覚えがある。
カイの時も…
「腕が無くなったって脚が無くなったって…僕はお前に向かうことをやめない。お前は魔王。世界に脅威をもたらす者。…ラスに脅威をもたらす者!」
「…ま、そうだな、違いねえ。じゃ…やるか」
「コー!リロイ!」
ラスの悲鳴が聖歌に聴こえた。