魔王と王女の物語
ベルルの“大好き”という告白はラスの胸を強く打った。


…この黒妖精は、コハクを心から愛しているのだろう。

自分だって…負けないほど、コハクが大好きだ。

“勇者様”が常に隣に居たことにようやく気が付いたのだから、絶対に絶対に負けたくはない。



「妖精さん、ごめんなさい、コーは私のものなの。コーだけは誰にもあげられないの。だから…そこは私が守る。どいて」


「あんた…!常にコハク様に守ってもらえて力も持ってない弱いあんたが何を…!」


「チビ、マジでー!?おいベルルそこどけ!チビ、頼んだぞ」


「うん、わかった!」



――コハクの命令には逆らえない。

ただでさえさっき本気で怒られてしまったのだから、これ以上怒らせると傍に置いてもらえなくなるかもしれない――

この王女がこれからもずっとコハクの傍に居たとしても、永遠にいがみ合ってやる。


…ベルルは妙な決意を固めていた。


「…まだ開けるんじゃないわよ」


「大丈夫。コー…」


ベルルが脇に避けると黒い棺の前に立ち、膝をついて、触れた。

ひんやりと冷たい棺の感触…

耳をあてて澄ましてみると、何も聴こえなかったが…

コハクの息遣いが聴こえたような気がして、瞳を閉じた。


「うはっ、おい見ろよ小僧。チビが俺の棺にっ!」


「影!これは遊びじゃないんだぞ!お前を見てると…イライラする!」


「そりゃ俺だって同じだっつーの。早くお前を倒してさあ、チビと…ふふふふふ」


この期に及んで色ぼけな妄想を炸裂させて鼻の下を伸ばしている魔王の余裕っぷりがいちいち癪だった。

今もまるでこちらが手合わせをしてもらっているような仕草で剣をやすやすと受け止めるとちらっとラスを盗み見する。

…生きている年月が違う。

だからこその余裕でもあるが、


ラスを不死にさせるわけにはいかない。

魔王の花嫁にさせるわけにはいかない。


「息が切れてきたな。そろそろギブか?」


「はぁっ、はぁっ、降参、なんか、誰かするか…!」


コハクの赤い瞳は、笑ってはいなかった。
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