魔王と王女の物語
この最悪の状況の中、リロイとコハクを比べてみた。


リロイは優しくていつも我が儘を聞いてくれて、とても強くて綺麗だ。


対してコハクは…

いつもよくわからないことを言うし、悪戯ばかりするし、時々そっけなくされて不安になって…

だけど最後はいつも優しくて、ふわふわになる言葉を沢山くれる。


コハクがこの世から居なくなるなんて、考えられない。



「影…お前は最期まで僕を苛立たせる男だった。僕は憎まれたっていいんだ。…お前を殺せるなら!」



リロイの朗々たる声はティアラの聖歌に詩を加え、瞳を閉じたコハクに向かって剣を構えると…襲い掛かった。


「いや、いやっ、リロイ!やめて!!」


真横からラスの悲鳴が割って入ってきたが、もう止まれない。


今日この日のために血を吐くような鍛錬を重ねて来たけれど…

結局こういう形でしか魔王からラスを奪えないことに挫折感を覚えた。



そして…

いつものんびりとしていて走ることのないラスが…


ラスが気が付いたら両腕を広げてコハクを背に庇うようにして立ちふさがっていた。



「ラス…!!」


「チビ!!!」



もう、止まれる距離ではなかった。


やわらかく――

やわらかくラスの胸に剣の切っ先が吸い込まれるようにして突き刺さろうとした時…


背後からコハクの腕が回ると後ろに引き寄せて、素手で魔法剣を掴んだ。



「チビ!お前……っ、なにしてんだ!チビ、血が…!」


「あ…あ、ら、す…っ!ラス…!」



リロイの手から魔法剣が落下し、ラスの胸の谷間付近からはじわじわと血が滲み、座り込んだ。


「痛い…っ」


「チビ、チビ、横になれ!俺がすぐ治してやるからな!」


「コー、こそ…手が…血だらけ…」


素手で剣を掴んだためにコハクの右手は真っ赤に染まり、聖歌を唄っていたティアラがコハクに駆け寄ると右腕を掴んで眉根を絞った。


「深いわ…私から治療されるのは嫌でしょうけど我慢して」


「チビ、しっかりしろ!」


心配に染まるコハクの声。


絶望に染まる、リロイの心――
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