魔王と王女の物語
ラスはお転婆盛りだった。


まだ一度も城の外へ出たことはなかった。

そしてコハク以外の遊び相手が城の中に一人だけ居た。


「リロイ、今日は何して遊ぶ?」


「そうだなあ、鬼ごっこは?」


乳母の子供のリロイ。

3歳年上のリロイは手が空いている時いつも遊び相手になってくれて、

両親が忙しくて構ってくれない時はいつも構ってくれる。


「鬼ごっこ?じゃあ森でやろうよ!」


城の中ではなく、唯一外を満喫できるのは森だけ。

ラスは自然が大好きだったので、森の中に流れる小川や鳥の歌声を聞くことでいつも自分を慰めていた。


ラスのその思いをくみ取ったリロイは小さなお姫様の手を引いた。


最近は“白騎士団”に入団したために会える時間が少なくなっていて、

幼馴染のリロイが金の瞳を細めてにこりと微笑んでくれるのがとても嬉しくて、


2人で近衛兵の目をかい潜って外に出て、手を繋ぎながら森を目指す。


『おい小僧、あんまりチビに触るな。ぶっ飛ばすぞ』


「影のくせに文句言うな。お前が復活したって今度は僕がお前を倒してやる」


『ほう、ちんちくりんがよくも俺にでかい口叩きやがったな』


いがみ合いも耳に入らないほど上機嫌なラスの影とリロイの影が重なった時、


突然リロイの脚が止まってラスが水色のドレスを閃かせながら振り返った。


「や、やめろー!」


『ほら、恥ずかしい姿でも晒してチビに笑われてしまえ。ほらほら』


――コハクに影を乗っ取られて身体の自由を奪われたリロイの手が軋み、シャツのボタンをぷちぷち外していくのを見たラスが“きゃっ”と叫んで目を隠した。


「リロイ!?」


「ち、違うんだ、これは…っ」


『おチビさん、ちなみに俺はこんなもやしじゃないからな。ダイナマイトバディだぜ』


「ダイナマイト?」


ラスが恥ずかしがって後ずさりをしたことで影が離れていき、自由を取り戻したリロイは慌ててシャツを羽織りながら、

ラスの影に腰に下げていた剣を突き刺した。


「ふざけるな!絶対僕が殺してやる!」


「コーを殺すの?駄目!」


――三つ巴。


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