魔王と王女の物語
…ただならぬムードだ。

コハクはラスの金の髪に触れているリロイの指を跳ね飛ばすと、ラスを強奪して馬車の中に入り、扉を閉めた。


「コー、どうしたの?探し物は見つかったの?」


やたらと自身の唇に触れては気にしている様子がまた癪に触って、御者台の方に移動するとリロイを叱り飛ばした。


「このうすのろ、早く馬に乗れ!」


「コー、怖いよ。リロイを怒らないで。私を魔物…大きな蜥蜴から守ってくれたんだから」


頬を桜色に染めて白馬に騎乗するリロイを盗み見ながら庇い立てして、表情を引き締めていればかなりの美形なコハクの顔には、

いつもの余裕たっぷりの皮肉が籠もった笑みは消えていた。


「お前…小僧になんかされたな?」


「えっ!?さ、されてないよ?されてないもん!どうして?私の顔に何か書いてある?」


明らかに動揺していて、明らかに何かを隠していて、

しかも両手で口元を覆ったので、それでぴんと来た。


「まさか…キスされたのか?」


「え!ち、違うよ、あれは…コーとおんなじやつだもん。仲良しの証拠のやつだもん」


――コハクの顔つきが変わった。


赤い瞳がすっと細くなり、薄い唇が真一文字に結ばれて、

いきなり馬車の扉を開けると外に出ようとしたので、真っ黒のマントを引っ張って引き留めた。


「コー、危ないよ!やめて!」


「俺のもんに手を出すとどうなるか…あの小僧に理解させてやんないとな」


「喧嘩しないで!リロイを怒らないで!私が…勝手にしただけだから…お願い」


マントを引っ張ったまま離さずにうなだれたラスの様子に怒りが徐々に萎んでいき、盛大なため息をついた。


「…仲良しの証は俺とだけやってればいいの!他の奴らは駄目!わかったか?」


「うん、わかった」


「…返事はええな、ぜってぇ嘘だろ」


「ほんとだもん!コー、怒んないで。勝手なことしてごめんなさい」


――生まれた時から一緒。

コハクと一緒に居れる時間ももう短い。


そう思うとどうしても寂しくなって、コハクの膝に上り込むと抱き着いた。


「ごめんね、コー…」


何度もそれを繰り返した。
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