魔王と王女の物語
離れようとしても、コハクは離してくれなかった。


それどころか抱きしめる力は強くなって、舌が絡まると、2人を光る糸が繋いだ。


「そんな顔するなよ。襲うぞ」


「襲うって…さっきの大きな蜥蜴みたいに?」


まだグリーンの瞳はとろんとしていて、


魔王は内心ガッツポーズ。


――光る糸を吸い取るようにしてもう一度唇を重ねると、


その後はわざと素っ気なくしてラスとは反対側の方に座って長い脚を組んで外を眺めた。


「さあな、自分で考えろよ」


「コーの意地悪。今の…すごかったね」


「すごかったか?もっとすごいのがあるんだけど、お前にはまだ早いな」


「どうして?早くないよ、私だってもう大人だもん」


頬を膨らませて、いつもとは逆の立場になって隣に移動してきては、自分の胸に見入っているラスににやり。


「色気が足りねえ。すごいのしてほしかったらもうちっと色っぽく迫ってみろよ」


「私、女らしくないの?胸ちっちゃいから?」


ドレスの胸元を引っ張って中を覗き込んだ際、コハクにもその白い胸は見えて、にやにや笑いが止まらなくなった。


「チビは食が細いから成長が遅いんだろうな。お前の年頃の子はこう、もっとバーンとしててボイーンとしてて…」


「今日から沢山食べるもん!私だってバーンってなってボイーンってなるもん!」


対抗意識からかそう言って自分の胸を撫でているラスがもう可愛くて仕方のない魔王は、馬車が止まったので御者台に移動して、


白で統一された城下町の入り口で鼻を鳴らした。


「フィリアか。カイに未練あるんだろうなあ、俺が慰めてやってもいいなあ」


「コー、変な顔してる」


鼻の下を伸ばしているとラスから突っ込まれて表情を引き締めながら馬車を魔法で消した。


「迎えが来てるぜ。お前は国賓だからな」


「お父様が連絡してくださったのかな?リロイ、行こ」


「ん。ラス、手を」


何だかいつの間にか2人の仲が急接近したような気がして、コハクが舌打ちをする。


「ようこそレッドストーン王国へ」


大勢の騎士に傅かれ、さすがのラスも少し緊張した。
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