魔王と王女の物語
急にコハクの機嫌が悪くなり、それが気になって仕方がないラスは何度も袖を引っ張って注意を引く。


「コー?どうしたの?お腹空いたの?」


「…空いてねえし」


「じゃあ…おしっこだ!」


「…プリンセスがそんな言葉使うなっつーの」


――その奇妙な会話を聞いたオーフェンはつい吹き出してしまって、


あの城で命を懸けて戦った魔王が子供のようにふてくされている姿が面白おかしくて、笑い声を上げた。


「魔王、お前まさか本気で王女のことを…うっ」


突然オーフェンの影をコハクが踏んだ途端、さっきのリロイのようにオーフェンの身体が折れ曲がる。


「チビ、ちょっとこっち来い」


有無を言わさずラスの手を引っ張って螺旋階段を上がって2階へと上がり、客室らしき部屋に勝手に入って鍵を閉めた。


「コー?」


「お前さあ、ちっとは俺のことわかってくれよ」


「え?わかってるつもりだけど…」


ベッドに寝転がったコハクの隣にころんと横になると、コハクの喉仏を弄り始める。


「ぜんっぜんわかってねぇっつーの。あーあ、おい、ベルル」


「はーい」


すると、コハクのシャツの胸元からもそっとベルルが出て来た。


回りを飛びながら嬉しそうな顔をしている黒妖精をまた掌に乗っけようとラスが手を伸ばしたが…


「大きくなれ」


小さかったベルルの身体が…ラスと同じほどの大きさになった。


「何の御用ですか?」


「こっちに来い」


ぐいっとベルルの腕を掴んで引き寄せて、ベッドに倒れ込むと…


頬を赤らめるベルルに覆い被さり、ラスの目の前で、激しく唇を重ねた。


「…コー……」


「ん、ん、コハク、様…」


「コー…やめてよ…」


お願いしても聞いてくれない。


目を閉じてうっとりとしているベルルに舌を絡めて、ラスからわざと見えるようにしてキスをする。


「コー、やめてよ!」


つい大きな声を出してしまい、そんな自分に驚いたラスがベッドから降りると、部屋から飛び出て行った。


「ちっ、くそ…っ」


イライラが止まらない。
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