魔王と王女の物語
それはコハクにされたのと同じものだった。

悪い魔法にかかったのは、あの時コハクが口をくっつけてきた瞬間から。

――ドレス越しに胸を触ってきて、なおいっそう激しく舌を絡めてくるリロイ。


…王子様だと思う。

いつも守ってくれて、優しくしてくれて、


もしかしたらリロイが王子様で勇者様なのでは?


「つ…」


リロイの唇を噛み切って離れると、つっと血が滴り、シーツに落ちた。


「ごめんなさい…私…」


「悪い魔法は解けた?解けたなら、それでいいんだ」


ベッドに座り直して純白のマントを整え、指で唇の傷口を拭いながらリロイが手を伸ばしてきた。


「影を捜すんでしょ?一緒に捜してあげるよ」


「でも…顔を合わせづらくて…」


「…それは影も同じじゃないかな。喧嘩でもしたの?」


ため息をついてこちらを見ようとしないリロイの肩を引いて振り向かせると…


優しげな美貌は少し不機嫌そうな顔で、ラスがさらに顔を覗き込む。


「リロイ…怒っちゃったの?」


「ん、大丈夫。…やっぱ僕はここに居るから1人で捜してくれる?ごめんね」


「ううん、いいの。じゃあ…行って来るね」


ちょっとぎくしゃくしながら部屋を出て、リロイとコハクがした“口と口のくっつけ合い”のことを思うとちょっと恥ずかしくなった。


「コー?どこ?コー…」


広い城内をさ迷っていると、2階のバルコニーに出てひらひらと飛んでいるベルルを見ながら難しそうな顔をして腕組みをし、手すりにもたれ掛っているコハクを発見し、脚が止まる。


「コー…」


「…なんだその顔。ぶさいくだな」


「ひどい。誰のせいだと思って…」


「俺のせいってか?ベルルとキスしてただけじゃん」


「…誰とでもするの?…私だけじゃなくって?」


――やきもちを妬いている…


そうわかった途端猛烈に嬉しくなったコハクの機嫌の悪さはいとも簡単に吹っ飛んだ。


「チビ、来い」


「うん」


背の高いコハクの前に立つと、腰を屈めて顔を近付け、にやりと笑った。


「寂しかったか?」


「うん」


即答。
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