魔王と王女の物語
ティアラはつんけんしたまま今度は歩調を緩めてラスたちを一際大きな部屋に通し、


と声を上げて室内を嬉しそうに歩いて回るラスに少しだけ頬を緩めた。


「ティアラ王女、ご案内ありがとうございます。後は僕たちだけで大丈夫ですから」


――ティアラの瞳には、リロイの姿が母がいつも語ってくれたカイ王とうりふたつに見えて、つい少し頬を赤らめると、それを隠すかのようにつんと顔を逸らした。


「ラス王女、2人でお話したいことがあるのですが」


「え、2人で?コーは影なんだけど…駄目?」


「駄目です」


「ちっ、仕方ないな。チビ、話が済んだら俺の名を呼べよ」


「うん、わかった」


笑顔で手を振ると、笑顔で返して手を振り返してきたリロイに対し、コハクはちょっとまた不機嫌そうに見えた。


「お話ってなあに?」


「…さっきはごめんなさい。本当はあんな態度取りたくなかったのに…」


急に外見と似つかわしい清楚で可憐な“本当のティアラ”に戻り、ラスの手をぎゅっと握った。


「え?」


「私、人見知りするんです。特に男の人とはあまり話せなくて…」


俯いて恥ずかしがるティアラにきゅんとなったラスは、急にがばっと抱き着くと、

ティアラの“ぼいーん”を思いきり堪能して歓声を上げた。


「ティアラって可愛い!ね、私のことはラスって呼んでね、これからよろしく!」


「ラス…ありがとう。あと…魔王のことですが…」


「コーのこと?もしかしてまた何か悪戯しちゃった?」


手を繋いだままソファに座り、首を傾げたラスの可愛らしさにティアラも癒されながら咳払いをして魔王の冷酷さを訴える。


「母は魔王から生涯残る傷を身体に負いました。本当にひどい魔法使いなんです。だからあまり気を許さない方が…」


「でもコーは優しくしてくれるよ?ひどいことなんか1度もされたことないし、わかんないこと言ったりするけど、良い魔法使いだよ?」


純粋にそう言っているのが見てとれて、ティアラは決意をする。


道中の間必ず魔王コハクの本性を暴いてやる、と。


「そうですか…」


にこっと笑い合い、でれっとなった。
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