魔王と王女の物語
はじめて見たコハクの姿はとても見栄えのするもので、

ラスはリロイの上体を抱きしめながらも唖然としていた。


なお毒を吐きながら吠える暴漢ににやりと笑いかけると大人しくなり、

影を伝いながら目の前まで来て“よっこらしょ”と言いながらしゃがんでリロイの脇腹に手を翳す。


「小僧め、今回限りだからな」


「え、コー?ほんとにコーなの?」


みるみる傷口が塞がってリロイの冷や汗も止まると、


コハクは赤い瞳をラスに向けて口角を吊り上げた。


「ああ俺さ。どうだ?早速惚れたか?」


「ば、馬鹿!コー、ありがとう!リロイを連れて帰らなきゃ」


小さなラスが気を失っているリロイの脇に潜り込んで支えようとするが、

体格差がありすぎて顔を真っ赤にしながら頑張るラスからリロイをひょいっとコハクが奪う。


「礼はチビが大人になってからでいいからな。エロい感じに育てよ」


「えろ?」


意味がわからず尋ねてみてもコハクは礼のくつくつ笑いを浮かべてリロイを肩に担ぐ。


「チビ、先に歩けよ。動けないだろ」


「あっ、うん」


――魔物――


カイはコハクのことも魔物だと言っていたが、


コハクが何故自分の影に憑いているのかをラスはまだ知らない。


長い金の髪を揺らしながら前を歩き、時々肩越しに振り返るラスの不安にそうな表情に、


コハクは極上の笑みを浮かべて考えることをやめさせた。


「俺さあ、チビの父ちゃんに嫌われてるから入口に着いたら消えるからな。わかったか?」


「うん。…もう会えないの…?」


ラスと、

見慣れない男がリロイを担いで歩いて来るのを発見した兵士が駆け寄ってくるのが見えて、


リロイを乱暴に地面に下ろすと肩を竦めて頷く。


「ああ。まっ、エロく育つまでは大人しくしといてやるよ。じゃあな」


手を振りながらとぷんと影に沈み、


ラスとコハクの第一次遭遇は幕を閉じた。

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