愛されたかった悪女
「そんなにすぐに決められません」


静かに彼女は言う。


「……そうよね、決められるわけないのは分かるわ でも、貴方は彼の元から立ち去るしかないの そうしなければ彼は不幸になるのだから」


そうよ、ハヤトを助けたいのなら身を引くしかないのよ。


彼女の瞳が揺れ動くのを見逃さなかった。


「時間が欲しいんです」


まだ何も決められていない。


私はこれ見よがしに深いため息を吐いて肩をすくめた。


「いいわ ニューヨークに戻ってから電話をちょうだい」


机に近寄るとメモ帳を開き、携帯番号を書いて一枚はがし、彼女に渡す。


「ニューヨークに戻ってから?」


あっけにとられたような彼女の顔。


あぁ……この子はここでの仕事が終わることを知らされていないのね。



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