愛されたかった悪女
目を閉じたところへ、ドアチャイムが鳴った。


マネージャーだろう。後で行くと言っていたから。


のろのろと身体を起こし、スイートルームのリビングを通り、玄関に向かった。


ドアスコープを覗かずにドアを開けると、立っていた男に目を見開いた。


ファビアン・ベランジェ、50代の世界的有名デザイナーが立っていた。


「マシェリ(私の愛しい女)なぜ連絡をくれないんだ?」


彼はつかつかと部屋の中に入り、私に抱きついて言う。


「ファビアン……」


彼が私の元に来ること自体、驚くことなのだ。


身体の関係はパリへ来るたびに続いていたけれど、彼が私の滞在するホテルを訪れることはなかった。


妻子がいて、地位もある彼の行動は慎重だった。


逢引きするアパルトマンを他人名義で買い、そこに女たちを呼ぶのだ。


だから彼が直接ここに来たことにあ然となった。


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