愛されたかった悪女
パニックを起こしていた頭に、更に襲われるパニック。


「大丈夫だよ。エステル、そんなに深くはない……」


腕を押さえながら起き上がるジョンを私はガタガタ震えながら見ているだけ。


でも、血が腕を伝わり、流れるのが見えると心臓がえぐられるような感覚に陥った。


「なんてことを……救急車を呼ばなくては!」


タオルを傷口に当てると、携帯を取りに行く。


携帯はどこなの!? どこにあるのよ!


散らかるリビングを探すが携帯は見つからない。


「エステル、大丈夫だよ。君の方が倒れそうだ。車で行ける」


ジョンの言葉も耳に入らず、私は見つからない携帯を探していた。


そんな私の瞳に床に落ちたナイフが映った。


無意識にふらふらと取りに行こうとする。


ゆっくり血の付いたナイフに手を伸ばした――その時、身体が後ろに引っ張られた。


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