蜜柑の香り
はじまり
『笑ってみないか、今だけでも
明日が来るなんて、限らないから
信じてみないか、一時でも
未来があるなんて、分からないから』
響く歌声。
小さなホール。
客入りは、上々。
薄暗いその様子。
ゆったりとしたリズムと音質の中、少しかすれたその声が
せつなく
甘く
人々の耳に触れる。
『…知っていたよ
戻って来ないって
分かってたけど
まだ探してる』
変わったライトに揺れる優しいギターの音。
壊れた恋のように、伸ばした声が震える、
寂しすぎる失恋ソング。
大好きだった人への想いを捨てた女の子の歌。
灯りが消えて
声が届かない。