魔女の悪戯
岩佐城
「忠純?
如何したのじゃ、かように呆けて。
早う入って参れ。」
鈴の鳴る声で、柚姫はレオを呼んだ。
「は。」
レオは軽く一礼して、部屋に入る。
柚姫はふんわりと笑うと、少しだけ脇息にもたれた。
レオは柚姫の前で、いつもラミア王女にするようにひざまづく。
柚姫はそんなレオに、首を傾げる。
「何じゃ、早うお座りや。」
「は、ははっ。」
レオは板の間に座ることなど訓練中以外なかったため、貴人の前で座るにはどういう座り方が礼儀なのか分からず、
クリスティア王国に正座のような座り方の習慣もなかったため、恐る恐る胡坐をかいて座った。
柚姫は微笑みを崩さない。
ただじっとレオを見つめていた。
「忠純。」
「は。」
「私も明日には嫁ぐ身。
そんな日に、殿御とこうして会うのは本来憚られましょうが、私はどうしても、そなたに礼を申したかった…。」
──嫁ぐ…。
レオはラミア王女を思い浮かべた。
──あの我が儘な王女様も、いつかはご結婚されるのか。
ラミア王女と柚姫が重なって、レオは少し寂しい気持ちになった。
「勿体ないお言葉です。」
「いや、本当にそなたには感謝しておる。
幼い頃より私を、世話し、守り、時には叱ってもくれた。
そなたがなくば、今の私はおらなんだ…」
寂しそうに瞳を伏せて言う柚姫。
──この方は、タダスミを、大切にお想いなのだな。
本当なら忠純に向けられた言葉なのに、レオの中ではどうしても柚姫がラミア王女と重なってしまい、
まるで王女が自分に向けて言ってくれているかのようで、胸が熱くなる。