魔女の悪戯
岩佐城
一方のレオは、ラミア王女が結婚するなど露知らず、お殿様の小姓の皆様と再び稽古に励んでいた。
「──刻限をお告げ申す!
御時(オントキ)は、申の刻(午後3時)にござりまするー!
御時は申の刻にござりまするー!」
身分の低い下女が、現在の刻限を言って回る声が遠くから聞こえる。
レオはそれを聞き流しながら、木刀を構え直して稽古を続ける。
ひとしきり汗を流したところで、今度は身分の高い侍女が稽古場にやって来た。
皆、さっとその場にひざまずく。
侍女は稽古場をぐるりと見渡し、
「もし、忠純殿と申す方はどなたにござりまする。」
と聞いた。
レオはとっさに、返事をする。
侍女は顔色を変えぬまま、忠純を稽古場から連れ出し、主のもとに案内した。
レオが連れて来られたのは、柚姫の部屋より一回り程広いところだった。
その場に座らされ、何事かと思案にくれる。
5分程待たされて、部屋の女主である風見篤景の正室、五条の方が上座についた。
「忠純や、急に呼び立ててしもうて、あいすまなんだな。」
「いえ。」
「そなたを呼んだは、折り入って頼みたい事があるからやえ。」
「頼みたい事…ですか。」
五条の方は、奥の間からある人物を呼んだ。
それは、五条の方の産んだ風見篤景の次女の桑姫(クワヒメ)だった。
何が言われるか察しのついたレオだったが、あえて何も気づかないふりをして、五条の方の言葉を待った。