魔女の悪戯
カンカンカンッ!
木刀と木刀が激しく打ち合う音が、岩佐城の庭の一角から響く。
普段であればそれをじっと見据えているはずの男が、今日は様子がおかしい。
城の御殿のをどこか寂しげに見つめていた。
男の名は、杉松忠純。
岩佐城主の長女、柚姫の守り役である。
姫と乳兄弟という縁もあってか、才覚が認められて城主直々に取り立てて頂いたものの、守り役とはいえ男と女。
それも一国一城の姫君とただの侍ではなかなかお会いすることも叶わない。
普段は姫の周りには侍女が付きっ切りになっているわけで。
主な役目は外出時の護衛がほとんどになっていた。
それでも鍛練を怠るわけにも、城に出仕しないわけにもいかず、こうしてお殿様の小姓の皆様に混じって稽古をする毎日である。
「忠純殿、如何した?
何やら心此処に在らずといった面持ちだが。」
稽古をしている小姓のひとりが話し掛けてきた。
それを受けて、別の小姓が笑う。
「なに、明日は姫のお輿入れだぞ。
幼い頃より守り役であるが故に寂しいのであろう。」
ニヤリと笑い、忠純の肩にがしっと腕を回す。
あまりにも図星なので、忠純は何も答えられずにいた。
幼い頃からお仕えしている姫。
誰よりお美しく御成長遊ばされた姫。
明日には今生の別れとなるやも知れないのに、まだお別れを申し上げることすら叶わないなんて。
忠純の心の中は稽古どころではなかった。