監禁恋情
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去り際に、憎い男が言った。

「そういえば、ありがとな。和樹。
お前、俺に知らせてくれてただろ。」

屋敷での生活で、随分と体調の良さそうな顔になった男は、見違えるほどにいい男で。

恋敵としては、随分と悔しい。

「残念ながら、あの時のあなたには、気づいては貰えませんでしたが。」

ため息混じりに、嫌味をひとつ。
だって、このまま何もせずに彼女をくれてやるなんて、悔しいじゃないか。

「ああ、だから今度こそ、あいつを幸せにするよ。約束する。」

「私に約束しても、彼女がもう待ちくたびれて他の男に気持ちを移しているかも知れませんよ。」

「それはないな。」

余裕たっぷりに笑いやがって。
むかつく。

「それより、お前がうちの会社継ぐのか?」

「いいえ、まさか。
旦那様はあんなことを仰りつつも、幹久様に、会社をお任せになるおつもりですよ。幹久様の努力は、誰よりも旦那様が知っておられます。」

「つまり、あとは兄さんの心次第か。」

ため息をついて、困ったように笑った。
言葉を続けようとすると、どこからか声が聞こえた。

「ちょ、ちょっと幹久っ。怖いわ!」

「いいえ母上!紀一の奴、母上に一言もなしに出発しようとしていますよ!」

そして、自分が仕える主人が、その母をおぶって息をきらしている姿で、自分たちの前にやってきた。

それを見て、その弟が声をあげて笑った。

「なっ、紀一!母上はお体が治ったばかりだぞ、仕方ないだろう!」

ムキになる主人に、爆笑する弟。
そんな様子を母が見守り、嬉しそうに微笑んだ。
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