監禁恋情
もうこの家族は大丈夫なのだと、
思わずつられて微笑んだ。

「紀一。たまには帰ってらっしゃい。
お父様も、あんな風に仰っても息子は可愛いのだから。」

「はい。母さんも、お体に気をつけて。
何かあったらいつでも呼んで下さい。」

母と子の、優しげな会話。
少し前には考えられなかった、穏やかな日常。

そしてなによりも、

「今度、あの娘を連れて来い。」

「さくらを?」

「…あの時のことを、きちんと謝罪しなければ。」

変わったのは、兄と弟の関係。
弟は兄に、本当に嬉しそうに微笑んだ。
兄も、照れたように頭を掻く。

「…では。」

去ろうとした男に、最後に言った。

「さくらさんに、伝えて下さい。」

振り向いて男は、真っ直ぐにこちらを見つめる。

「どうか、幸せに。」

目を見開いて、男は、自分たち三人に、深々と頭を下げた。




「行ってきます。」



この背中が見えなくなるとき、
俺はこの恋を忘れよう。

初めて好きになった、あの少女の幸せを願って。
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