監禁恋情
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「……」

頬が冷たくて、目が覚めた。いつの間にか伝っていた涙を、そっと拭う。

すらりとした、細い指。

さっきまで見ていた、ガリガリの子供の手とは違う。

しばらくそれを見つめていると、隣で何かが身動ぎした。


横を向くと、黒髪の、顔の整った男が1人、寝ていた。

そう言えばこの男の顔も随分とキレイになったものだと、しみじみと見つめる。

すると男の目が突然開いて、かすれた声で話し出した。


「どうした……?」


自分が首を傾げると、ふわっと抱き寄せられた。


「怖い夢でも見たか……?」

その腕の中が、ひどく心地よくて、思わず頬をすりよせた。

「……珍しく甘えん坊だな……さくら……」

さくら、と呼ばれて、男の顔を見つめた。

「さくら……?」

自分が思わず聞き返すと、

「なんだ、もしかして寝惚けてるのか?」


男はキョトンとした。
そして自分は、ようやく色々思い出すことが出来た。

思い出すことが出来たことにひどく安心して、男の胸にことんと頭を預ける。


「……紀一さん……おはよう……」


なんて今さら言ったら、笑われた。

「やっぱり寝惚けてたのか、おはようさくら。でも、今日はまだ寝ててもいいかい?」

ちゅっと頬にキスされて、胸が高鳴る。

「……あれ……」

樹一の声が変わった。

「泣いてたのか……?」

心配そうな声が愛しくて、もう不安なんてない気がして、自分はにっこりと微笑んだ。

「どうして泣いていたのか忘れちゃいました」

こうして、愛しい日常を、ゆっくりと迎えた。
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