監禁恋情
「お止め下さいっ、幹久様!」

倒れていた和樹が、幹久の足にしがみつく。紀一は、起き上がり、どうにかその光景を見つめた。

「離せ和樹!裏切り者めっ!」

そういって和樹を突き放して、幹久は紀一を指さして言った。

「何故だっ、何故皆お前しか見ない!昔から俺がどんなに努力しても、周りはお前しか見ていなかった!」

「…俺は…」

そんな物要らない…と続けようとした紀一を、幹久は罵倒した。

「それに加え、お前のその態度だ!お前がそれを受け入れるのなら、まだ身を引くことも出来たというのに!」

…そうか…。

紀一はうなだれた。

兄をこんな風にしてしまったのは自分だったのか。自分は確かに、兄に対してあまりに無礼だったかも知れない。
自分が価値を見いだせない物にばかり思いを寄せる兄を、俺は無意識のうちに馬鹿にしていたのだ。

それならば、さくらをあんな風に苦しめてしまったのは結局自分じゃないか。

しかし、それでも…

「俺はお前のお下がりなんて欲しくなかった!!」

幹久が、壁を殴る。
殴られた箇所はへこみ、幹久の拳は痺れ、痛んだが、それでも止められない思いのままに、ただ紀一を睨みつける。

しかし、それでも譲れない思いが、紀一にもあった。

「…そうか…、俺があんたを苦しめてたんだな。」

紀一が、ゆっくり起き上がる。

「だがそれでも、罪のないさくらを巻き込む理由にはならない!」

今にも飛びかかりそうな形相で、睨み返した。

「あんな小娘、どうせ俺が拾ってやらなくても、どっかの変態に買われておしまいだっただろう!最後の日々を少しは人間らしく過ごせた事、逆に感謝されてもいい程だ!」

「…黙れ!!」

紀一の拳が、力一杯幹久の頬を殴った。
幹久は倒れ、それでも紀一を睨みつけ、反撃しようと立ち上がりかけた。





「いい加減にしろ!!」
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