spiral
今日は二十日。ママから入金がある日だ。
「あれ?忙しかったのかな」
口座には何百円かの残高だけ。
「明日になって入ってなかったら、メールしても怒られないよね」
カードをしまって、コンビニを出た。
まだ二日くらい使える金額は持ち合わせている。
「秋っていっても、まだ紅葉しないんだなぁ」
そんなこといいながら、帰り道を歩く。
景色をみる余裕があった。
ちゃんと食べる。寝る。それだけのこと。
けどそれがどれだけ大事なのかということを、ママと離れて暮らすようになって学んだ。
伊東さんがくれるお弁当を、二回に分けて食べる。
同じ年頃の女の子で比べたら、きっと栄養は足りていない。
「そろそろパン焼かなきゃな」
足りていないけど、生かされるだけのお金が与えられている。
学校や市に相談すると、きっともっとママと遠い関係になる。
生かされている以上、嫌われたくない。
いつかをやっぱり信じていたい。
甘いって言われてもいいから……って、思っていた。
夢物語みたいな思いは、木っ端みじんに打ち砕かれる。
受験できるのかわからないけど、勉強しておきたくて頑張ってた。
苦手な英語を二時間やってたら、眠ってしまってた。
今日はドアにレジ袋がかかってた。
『時間がないから置いていくよ。うちの新商品のお弁当。今度感想きかせてくれるかな』
なんてメモが入ってた。
鶏南蛮弁当というものだった。
鶏肉は好物。
関わるなと言われているけど、勝手に置いていかれてしまったんだもん。
「仕方がない、よね?こればっかりは」
言い訳のように呟き、軽くレジ袋を上にあげて、
「ごちそうさまです」
聞こえるはずがないのに、感謝を口にした。
レンジで軽くあたためて、ふたを開ける。
肉の匂いに、お腹が早く食べろと急かしたてた。
「いただきまぁす」
噛むとじゅわっと肉汁が出てくる。
食べてる最中に、またお腹が鳴った。
「美味しいなぁ」
そんな満たされた気持ちで始めた受験勉強。
苦手なものも、なんとか頑張ろうという気になったんだ。