spiral

すこし距離を置いて座る。

「それで、本当に学校行くの?」

心さんにも聞かれて、「出来れば」と返す。

「お兄ちゃん、伊東さんにこのことなんて言えばいいんだろう」

というか言える内容じゃないよね。きっと。

「あたしが黙っていればいいのかな、やっぱり」

冷蔵庫に向かって歩き出してたお兄ちゃんは、振り向きもせずに、

「大丈夫だ。それも心配いらないから」

さっきと同じことをいう。

「大丈夫って、でも」

なにをどうするのかすら教えてくれない。

「お前の今回のことも、なにもかも。俺とオヤジに任せておけばいい」

どうして?どうして蚊帳の外になってるの?

「ママと話し合いでもするの?」

思ったことをそのまま口にした。

するとお兄ちゃんが、今まで聞いたことがないような低い声で呟いた。

「話し合いなんかでどうにかなるわけねぇし」

ドクンと心臓が強く脈打った。

「お……」

お兄ちゃんと呼びかけ、言葉が出なかった。

わずかに見える横顔も、いつもみているお兄ちゃんの顔じゃない。

「ナオト」

心さんが呼ぶと、「ん?」といつもの顔になった。

気のせい?見間違い?

「お腹空かない?何か作るわ、あたし」

「あー、だったら買い出ししてくるか。……凌平」

「ん?車出すか?」

「いや、いい。そんかし、マナと留守番しててくれよ」

心さんの手を取って、二人が出ていこうとする。

「ん、わかった。気をつけていけよ」

「あぁ」

いってらっしゃいと声をかけなきゃと思うのに、さっきのままで声が出ない。

そうこうしてるうちに、玄関のドアが鳴った。

「はぁっ」

胸に重たいものが詰まってたみたいで、思い切り息を吐いた。
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