spiral

すこしだけ身を乗り出して、話を聞く。

「オヤジさんにさ、しょっちゅう殴られてた。俺が最初会った時も、ボコボコにやられてた後」

ソファーカバーを思わず握ってしまう。

「ナオトはナオトで、自分が出かけてて、それを迎えに来ての事故。しばらく自分を責めてたって言ってた」

当時のお兄ちゃんに会ったこともないのに、頭の中にその光景が浮かびそうだ。

「俺が俺がって思ってる本人にさ、オヤジさんが畳みかけるように暴力で責める。お前が代わりに死ねばよかったって」

空に逝く状況は違うのに、アキが死んじゃった時のパパとママが浮かんだ。

しばらく似たようなこと言われたっけ。

「本当に死ねばいいって何度も思ったみたい。というかね、多分似たもの親子。あそこ」

そう呟く凌平さんの目は、口調は結構軽めに話してるのに、内容も視線も緊張感が溢れてる。

「今、きっとほころびてる」

「ほころび?」

ほころびという言葉を思い出すけど、どこか曖昧にしか思い出せない。

「もっと簡単にいえば、壊れてきてるっていう感じ」

壊れてきてると言われたら、とんでもなく恐ろしい状況なんじゃないかと思えてならない。

「もうすでに、何かが起きてるのかもしれない」

脅しのようなその言葉に、思わず凌平さんの腕をつかむ。

「ん?なに?」

一度口が開きかけて、躊躇う。口にすれば、現実感を帯びそうで怖い。

「……何が起きてるか、確かめるのが怖いかい」

目を見張った。一層言葉が喉で詰まったように出てこない。

それでも縁あって家族になったという、伊東さんが言ってくれた言葉を思い出す。

あれがずいぶん前のように感じられる。

「怖くてもね、確かめて、自分の目で見て自分で考えた上で、答えを導きださなきゃ」

まるで先生みたいな話だ。

「っていっても、俺だって何度も迷ったり間違ったりしてきてるよ」

クスクス笑って、また頭を撫でる。そのまま指先が髪を梳く。

「本当の過ちを犯す前に、なんとかしなきゃって思うよ。……どうする?」

お兄ちゃんが出かけたこと。そのチャンスにこうして話せたこと。

「お兄ちゃん、もしかして自分でも気づいてるのかな」

そんな気がしてならない。

無意識で出してるシグナル。何が起きてるかはわからないけど。

「なの……かな。それは本人に聞かなきゃわからない」

「ですよね」

でもあたしに何ができるだろう。

< 106 / 221 >

この作品をシェア

pagetop