spiral
すこしだけ身を乗り出して、話を聞く。
「オヤジさんにさ、しょっちゅう殴られてた。俺が最初会った時も、ボコボコにやられてた後」
ソファーカバーを思わず握ってしまう。
「ナオトはナオトで、自分が出かけてて、それを迎えに来ての事故。しばらく自分を責めてたって言ってた」
当時のお兄ちゃんに会ったこともないのに、頭の中にその光景が浮かびそうだ。
「俺が俺がって思ってる本人にさ、オヤジさんが畳みかけるように暴力で責める。お前が代わりに死ねばよかったって」
空に逝く状況は違うのに、アキが死んじゃった時のパパとママが浮かんだ。
しばらく似たようなこと言われたっけ。
「本当に死ねばいいって何度も思ったみたい。というかね、多分似たもの親子。あそこ」
そう呟く凌平さんの目は、口調は結構軽めに話してるのに、内容も視線も緊張感が溢れてる。
「今、きっとほころびてる」
「ほころび?」
ほころびという言葉を思い出すけど、どこか曖昧にしか思い出せない。
「もっと簡単にいえば、壊れてきてるっていう感じ」
壊れてきてると言われたら、とんでもなく恐ろしい状況なんじゃないかと思えてならない。
「もうすでに、何かが起きてるのかもしれない」
脅しのようなその言葉に、思わず凌平さんの腕をつかむ。
「ん?なに?」
一度口が開きかけて、躊躇う。口にすれば、現実感を帯びそうで怖い。
「……何が起きてるか、確かめるのが怖いかい」
目を見張った。一層言葉が喉で詰まったように出てこない。
それでも縁あって家族になったという、伊東さんが言ってくれた言葉を思い出す。
あれがずいぶん前のように感じられる。
「怖くてもね、確かめて、自分の目で見て自分で考えた上で、答えを導きださなきゃ」
まるで先生みたいな話だ。
「っていっても、俺だって何度も迷ったり間違ったりしてきてるよ」
クスクス笑って、また頭を撫でる。そのまま指先が髪を梳く。
「本当の過ちを犯す前に、なんとかしなきゃって思うよ。……どうする?」
お兄ちゃんが出かけたこと。そのチャンスにこうして話せたこと。
「お兄ちゃん、もしかして自分でも気づいてるのかな」
そんな気がしてならない。
無意識で出してるシグナル。何が起きてるかはわからないけど。
「なの……かな。それは本人に聞かなきゃわからない」
「ですよね」
でもあたしに何ができるだろう。