spiral

「……バカね、本当に」

あたしは顔に出やすいのかもしれない。

「これから先、あたしが代わりに一緒にしてあげるから」

お兄ちゃんの彼女なのに、妹のあたしを実の妹みたいに扱ってくれる。

優しい人ばかりに囲まれて、今のあたしはなんて幸せなんだろう。

「ほら、トマト洗っちゃってよ」

「うん」

手の甲で涙を拭い、トマトを洗う。

離れて、嫌われて。殺されかけもしてから、こんなにママに寄りかかりたかった自分を思い知る。

離れてから何度目かな。気づくの。

拭っても涙は勝手に出てくる。

「いっそそのままほっときなさい」

涙を流しながら、料理を進める。生姜たっぷりの生姜焼き。

焼くと体が勝手に反応する。

「あははは、いい音」

って、隣りで心さんが爆笑してる。

「だって」

したかったことが、こんなにもある。こんな会話もママと……って。

お兄ちゃんのこと、ママのこと。伊東さんへの信頼感。

悩むべきことは多い。

(それでも前に進みたいって思うのは、変だって言われる?)

学校に変わらず通おうと思うのは、まだ変わってない。行くつもり。

危ないよね、確かに。

「はい、あとは運ぶだけよ」

出来上がった生姜焼き。それとお味噌汁にご飯。

小さめのテーブルで、ぎゅうぎゅうになって食べる。

「うん、美味しい」

みんなで囲むご飯が楽しいってことは、お兄ちゃんと伊東さんが思い出させてくれたこと。

ふとお兄ちゃんに目を向けると、いつものように美味しそうに食べている。

(お兄ちゃんが悲しい思いをするのは嫌だな)

そう思い、最初にしたいことを決めた。

お兄ちゃんの違和感を知ってる心さん。彼女に話を聞こうと思った。
< 109 / 221 >

この作品をシェア

pagetop