spiral

 凌平さんの家で、あの時のように過ごす時間。

お兄ちゃんと心さんは二人でくっついて眠る。仲がいい。

時々凌平さんは仕事に行ってしまう。その間、一人になるのが怖いけど仕方がない。

「ナオト、実家に帰すのはヤバイ気がする」

凌平さんがそういった。

お兄ちゃんと心さんは、ここから学校に通ってる。あたしは凌平さんの見送りで、やっぱりここから通ってる。

クラスメイトに「あの人、彼氏?」なんて冷やかされたりもする。

「ううん、絶対に違うから」

即答して、頭の中でも同じ言葉を繰り返す。

(違う。彼氏なんかじゃない。お兄ちゃんの友達で、おせっかいなだけ)

お兄ちゃんが学校帰りに家に寄ってないか、ドキドキする。

もしも帰って、あの違和感のまま何かが起きたらって焦る。

けれど一人で出かけるわけにもいかず、実家に行くのも無理で。

あれから5日ほど経ったけど、伊東さんが何も言ってこないのも不思議だった。

もしも凌平さんがいうような違和感が、お兄ちゃんだけじゃなく伊東さんにもあるなら。

その間にいるママはどうなの?元気なの?

それともママが二人の変化を助長してるとか。

一人の時間が増えるといらぬことを考える。考え出すと、どうにも止まらなくなる。

 そんな日々を過ごして、1週間目。事件は起きた。

「え?あたしがですか」

「そう、君だ」

あの作文の発表会。

あれから考えて、とりあえずで出した作文が選抜に選ばれた。

「だってあたしの作文は」

そう言いかけて先生を見ても「決定したことだ」としか言わない。

「内容を変えるのはダメなんでしょうか」

「作文の内容を見て選んでいるのに、選ばれてから変えるというのは本末転倒だ」

どうせ選ばれないと思って、書いてみただけなのに。

心さんと話をして、先生に何かあった時に助けてもらおうというのもあって、告白文のような作文を書いたあたし。

ママとパパとアキとの生活と、それからの日々のこと。

小さな勇気だったのだけど、まさかだ。

「教頭が決めたことだ」

そういわれ、書かなきゃよかったと思った。失敗だったと。

「面白そうな題材じゃないか」

担任の前で立ち尽くしてるあたしの肩に、教頭先生の手がポンと乗る。

「期待しているよ。学園祭を盛り上げてくれ」

その言葉を耳にした瞬間、学校の先生にも何かを期待してた自分を知る。

理解者になってくれるだなんて、どこかで思ってたみたいだ。

思ったよりもガッカリして、職員室を出た。
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