spiral

お兄ちゃんは伊東さんに話したっていう。あたしが学園祭で発表するということを。

あたしにがんばってと伝えてくれといっただけで、電話は切れたとか。

どんどん不安になってくる。

あたしの命を救ってくれた伊東さん。

こんなにあれもこれも起きるし、しょっちゅう帰らなくなるあたし。

事情があるとしても、親としてはあまり嬉しくない娘だよね。

「学園祭には来るってさ」

あたしの気持ちを察してくれたのか、お兄ちゃんが元気出せっていう。

「でもあの内容じゃ」

読んでいいのか迷う。でも出ろと言われた以上出ないとダメなんだよね。

「当日風邪ひいたらいいのかな」

そういうと、「すぐにばれるわよ」と心さんが言う。

「せめて書き直しさせてくれないかな」

内容はすぐにでも思い出せる。

「無理だろ、あの教頭じゃ」

「だよね」

テーブルに突っ伏し、目を閉じた。

(ママに聞かせられない作文だし、きっと来ないよね)

呼んでもいない人のことを思う。

あの作文にはママへの思いが一番書いてある。読めば、こういうに違いない。

「マナ。あんたって、つくづくうざい子ね」

とかなんとか。

「そういえば明日、月命日だから帰るから」

お兄ちゃんが参考書を読みながらそういった。

「え、帰るの?家に」

「当たり前だろ。変なこと聞くのな、お前」

トクントクンと心臓が強く脈打つ。

今は出かけている凌平さん。相談した方がいい?

心さんを横目に見れば、

「あたしはさすがに席をはずすことになってるの」

と微笑む。その言葉に、急激に焦りが生じた。

「あたしも行く!」

凌平さんに相談もなく、そう言ってしまった。

「……行くの?マナは」

心さんが確認してくる。その言葉で、自分が何を言ったのか気づく。

「行くのね、マナは」

もう一度。それがきっとチャンスだったのに、止めると言えなくなった。

「そうか。じゃあ一緒に行くか」

お兄ちゃんが嬉しそうにいい、予定が決まったから。

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