spiral

「じゃあ、明日はオヤジが迎えに来るから」

「あ、そうなんだ」

「8時には来るって」

結構早いんだな。どうしよう、凌平さんって今日、何時に帰るのかな。

「寝坊するなよ」

「う、うん」

今から緊張してきた。どうしよう。

自分が言い出したことだけど、自分を追いつめてしまった。

「それとさ」

お兄ちゃんが何か言うたびに、体がビクンとする。

「あ、うん」

「今夜帰らないから」

その言葉に「え?」という声が二つあがった。

お互いにそう声を発していながら、互いを見る。心さんとあたし。

一瞬の沈黙。その後、心さんがすぐさま聞き返す。

「どこか行くの?実家に先に行ってるの?」

一気にそう話しかけると、違うと首を振る。

「じゃあどこ行くの?ナオト」

心さんの表情はかなり真剣だ。

「浮気とかじゃないから。ただ、お前にだけ頼みたいことがある」

そういい、心さんに耳打ちする。

真剣な顔つきで聞き始めた後、最後には頬を緩めた。

「了解」

そう頷き、お兄ちゃんの頬にキスをした。

「マナ。悪いけどあたしも帰るわ」

「え?心さんも?」

ということは、凌平さんが帰るまで一人?

「凌平が帰るまではいるよ。な?心」

「うん」

最終的には一緒にいるの?二人で。

「……わかった」

距離を感じた。壁ってほどじゃない。でも、なんだか遠い。

「凌平にメールしてみるかな。何時になるのか」

ゆっくりと頭の中を整理する。お兄ちゃんと心さんがいなくなる。

凌平さんがいたら、誰かが来ても何とかしてくれそうではあるけど。

「でも……お兄ちゃん」

「ん?あー、ちょっと待て。凌平から電話だ」

確認したかったことは、遮られてしまった。

「メールのまんまだって。俺出かけるから。朝、マナを迎えに来て、その後帰るのは明日の月命日終わってから」

話がどんどん進んでいる。あたしが聞きたいことを聞けないままで。
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