spiral

「あ?……あ、うん。まあ、そういうことだからよ。早めに帰ってきてくれよ」

通話を切って、何かを言いかけて口を開いたのになんでか話し出さない。

「なに?どうしたの、お兄ちゃん」

不安に駆られる。早く言って。

「あ、あぁ。もうすぐ帰ってくるって。わかったか?マナ」

わかったかって言われても、なんだか嫌だな。

「でもお兄ちゃん、気づいてる?」

不安な気持ちを吐露してもいいだろうかと迷いはしたけど、言わずにはいられない。

「あたし、凌平さんと二人きりになっちゃうんだよ?」

なにかあっても守ってくれるかもと思っても、そうじゃない部分で不安が首をもたげる。

「あ、そうだっけ」

意にも介してなかったのか、今気づいた感じ。

「いいの?二人きりだよ?」

あれだけあたしに触るなとか言ってたんだもん。何か言ってくれるよね?

「あー、うん。大丈夫だろ、凌平なら」

でも期待してた言葉はなくって、あたしは一瞬にしてどこかにいってしまった。

「マナ?」

「あ、うん。平気。大丈夫」

焦点が合ってない、きっと。どこみてるか、本人がわかってないし。

「明日迎えに来るから」

「うん。いいよ。凌平さん帰ってくる前に出かけても平気」

強がりじゃなく、もう心がちぎれそうになってただけ。

それにお兄ちゃんは気づけない、今のお兄ちゃんじゃみてくれない。

「そっか。……じゃあ、出かけるか。心」

「え?いいの?ナオト」

心さんに話を聞きたかったのにな。結局自分がしようと思ったことは、なにも出来ずに終わりそう。

「いってらっしゃい」

玄関で二人を見送る。どこかを見ながら、二人の表情なんかわからないまま。

カチンと鍵をかけ、その場にカクンと膝をついた。

やっぱりおかしいんだ、お兄ちゃん。

それとも、もうあたしに興味とかなくなった?心配してもくれない?

心さんはお兄ちゃんの異変を何とも思ってないのかな。

「お兄ちゃん……」

玄関の壁にもたれかかって、声を殺して泣く。

一人だろうがなんだろうが、声をあげて泣くことがなかなか出来ない。

それでも泣けるようになっただけ、マシになったのかもとも思う。

泣くことすら躊躇われたあの頃よりは、心が普通になりつつあるのかも。

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