spiral
なんとも形容しがたい空気が流れる。
(そういえば今って何時だろう)
時計を見る。深夜1時か。あと7時間後に迎えに来るんだっけ。
「ナオトの実家に行く。すなわち、母親と会う可能性がある。それは今のマナにはかなり危険。それと、ナオトのオヤジさんとナオト。二人の違和感についての真実を垣間見ることになるかもしれないんだよ」
黙って時計をみているあたしに、凌平さんがゆっくりと噛みしめるように話してくれる。
「今までは俺にくっつくなってやかましかったのに、こんなに簡単に置いていく。その時点で、あいつの中が膿んでないか不安で仕方がないよ」
「不安?」
そう聞き返す。すると、頬に手が伸びてきた。
「マナが、また傷つくんだろうって」
「それは」
考えなしだったのが正直のところ。そこは突っ込まれても仕方がない。
「誰もがマナを傷つけるかもしれない中に、一人で特攻?バカだよ」
「だってあたしお兄ちゃんをほっとくなんて出来ない」
そういったあたしに、真顔でこう言う。
「……そのナオトもが傷つけてきても、それでも仕方がないって許すの?」
ドクンと強く脈打つ心臓。ドクドクと続けて強く鳴りつづけてる。
「ナオトは信じていいと思う。けど、壊れているのも本当。それとね」
そういってから、言葉を選んでか、ゆっくりと呟く。
「肉体を傷つけるだけが、人の傷つけ方じゃないだろ。……それ、嫌んなるくらい知ってるよね」
言葉をよく噛みしめる。考えて考えて、それから凌平さんに返す。
「ママに教えられたから、知ってます」と。
「だよね。……だからさ、ナオトとオヤジさんがマナを直接傷つけなくても、マナが悲しかったり痛く思えるようなこと、しないとは言い切れないよ」
凌平さんは何が言いたいんだろう。なにかすごく言葉を選んでいるような。
「ねえ、本当に行くの?」
そして、止めようとしてる。思わず眉間に皺を寄せた。
「やめなよ。ナオトには俺が話してあげる」
「……どうして」
「え、なに?」
「止めるんですか」
すこしの後悔はしてた。けど人間って不思議で、誰かに止められると進みたくなる。
「お兄ちゃんなら大丈夫って信じます。だから行くつもりです」
言い切ったあたしに、今度は凌平さんが眉間に皺を寄せた。
「どうしてさ」
凌平さんを黙って見つめると、わずかな間重なった視線は、凌平さんから外された。
「自分を危ない場所へ誘うのさ」
視線を外したまま呟く、その言葉。それはとても悲しげに聞こえた。
「マナはわかってない。でも、俺は知ってる。だから言わせて」