spiral
「何をですか?」
あたしは真っすぐ見つめているのに。
「行くなよ、傷つくってわかってるところに……って」
あたしを見ないままの凌平さんが、何か苦しげにも見えた。
「けどあたしは」
お兄ちゃんが助けてくれって言ってるようにも感じはじめてる。
だから行かなきゃって、心のどこかで思ってるんだ。
警鐘めいた感覚。初めてだ、こんなの。
「行くんです。きっと大丈夫」
なんの確証もない。
それでもあたしの命を救ってくれた二人だから、壊れてても平気。
「絶対って断言する。マナが悲しむようなことになるから」
なにを予感してるの?何が起きるというの?
「行きます」
「行くな」
「凌平さんに止められる理由がわかんないです」
凌平さんがいうことのすべてがわかってないんじゃないの。けど、嫌だ。
やっと凌平さんが顔をあげた。その顔はやっぱりどこか悲しげで。
不意に長い手があたしに向かって伸びた。
「凌……」
抱き寄せられた。時間が止まる。そんな感覚。
「好きだから。悲しむマナより、笑ってるマナがみたいだけ」
どうしてそんなに好きだなんていうの?
お兄ちゃんと過ごした時間が長いのは分かる。でもあたしは、極端に短い。
しかも何かしらトラブルがあった時に、そばにいることが多い。
あたしの困った部分しか知らないはず。それでも……好き?
「悔しいんだ、俺。ナオトと一緒の時のマナ、本当にいい顔すんだもん」
「お兄ちゃんに」
言いかけ、口を噤んだ。
(妬いてるんですか?なんて、図々しいかも)
飲み込んだ言葉を、凌平さんがやけくそ気味に「あぁ、妬いてるよ」と吐き出す。
そして、体を離してく。
「なんで俺がこんなにマナに執着するのか、知ってほしいよ。俺にだって興味もってほしいんだ」
「ないわけじゃないです」
取ってつけたような言葉に、まるで子供のように口を尖らせる。
「ヤダ」
いつもの言葉で、あたしがいった言葉を拒否する。
「ヤダって言われても」
「ヤダったら、ヤなんだよ」
このやり取りに、緊張が解けてしまう。
「困った人ですよね、凌平さんって」
口を尖らせたままの凌平さんの頬に手を伸ばすと、なぜかビクッと反応された。
ゆっくりとその動きを待ってるみたいに、緊張した顔つきで頬に触れる手を受け入れる。
「子供です、まるで」
ただ触れるだけ。ただ、頬に手のひらを当てただけなの。
「……マナ」
あたしの何個も上の凌平さんが、耳を赤くしてあたしを見つめる。