spiral
「ア、キ……」
かすかに洩れたその声に、ママの手が緩んだ。
ただ、ほんの一瞬。
その一瞬で一気に酸素が体内に入り込んでくる。
「ゲホッ!……げ、ほん、ゲホッ」
激しくむせるあたしの顔を、ママが殴りつけた。
「ギャッ!」
目の下。骨が軋んだかと思うほどの痛み。
「あんたのせいで!」
そうしてまた、ママは首を絞めてきた。
あたし、そんなにママを苦しめるようなことして生きてきたの?
アキのこと以外、何もしてないって思ってたのに。
ここまでしなくたっていいじゃない!
沸々と沸いてくる、初めての感情。
体が勝手に動いてた。
「っったぁぁ!なにすんの!」
ママを思い切り突き飛ばしてた。
また一気に酸素が入ってきて、咳を激しくしたらものすごい吐き気が襲った。
「うげ、ぇ」
ボタボタと床に落ちていく嘔吐物。
あんなに美味しかった鶏南蛮が、全部吐きだされた。
四つん這いになって吐いていると、目の前にママの爪先。
ゾクッとした刹那、逃げる間もなく顔を蹴りあげられる。
「う、あぁっ!」
テーブルごとひっくり返る。床には半分残していたお弁当。
それをおもむろに掴み、顔の痛む箇所に的確に擦りつけられる。
調味料がしみて、ジンジンする。
「関わるなって言ってあったでしょうが!」
ドカドカとかかとでわき腹を蹴られる。
どうして?
どうしてこんなに血の繋がった母親に嫌われなきゃならないの?
体も心もすべてがキシキシ痛んだ。
痛みが支配して、切なかった。
あたしの髪を鷲掴み、ママが顔を近づける。
「なんなのよ、コレ。十分に関わってるでしょ?」
またお弁当を顔に擦りつけ、そのまま床に頭を叩きつけられそうになる。
「やだっ!」
とっさに手をつく。これ以上の痛みからなんとか逃げた。でも……。
「いい?これ以上あの人と関わったら、今度こそあんたを消してやるから」
体の痛みから逃れられても、心の痛みからは逃れられなかった。