spiral
「それ、ズルイよ」
固まったまま、凌平さんが呟く。その声は震えてるようにも聞こえる。
「あたし何も」
そう言い返せば、「困らせるなよ」と愚痴のように呟く。
「困らせたんですか?また」
なにかと困らせているあたし。そんなにしゅっちゅう困らせてて、好きもなにもないんじゃないかな。
「違うって。……なんでわかんないかな」
耳はさらに赤みを増していく。
「その顔。卑怯だよ」
「……顔?」
鏡を見ながら話してるはずもなく、言われてることが把握しきれない。
「マナってさ、すごく母性みたいなのが強いんだと思う」
頬にあてたあたしの手に、凌平さんの手のひらが重なる。
「包み込むようなって言い方かな、多分。安心して、力が抜けて、抱きしめられたくなって」
頬にあったあたしの手は、凌平さんが手を重ねたまま、頬から外してしまう。
そのまま、二人分の手のひらを拳に変える。
「愛されたくなっちゃうんだ」
はにかんだ表情。男の人のこんな表情を見たのも初めて。
「ナオトの携帯で見て、知ってた。マナの顔。でもね、好きになったのその後なんだ」
包まれた手があたたかくなる。この温かさは、なんだろう。戸惑ってしまう。
「マナが母親に連れて行かれただろ?」
コクンと頷く。妙な緊張感。
「あの時、目が合った。なんていうかな、マナ以外みえなくなったっていうか、周りがぼやけたっていうかさ」
いくつだっけ、凌平さんって。確か、お兄ちゃんの五つか六つくらい上だっけ。
急に幼い顔つきになるから、動揺しちゃうよ。
「マナが俺だけ見てるって気がした。気のせいでもいい。俺だけみてて、とも思ったし」
拳に伝わる温度は、凌平さんの想い?
「俺だけが助けてやれるって。……マナが母親と部屋に消えちゃってから思い出した。あの子、ナオトの妹だって。顔を思い出したのもその時」
「そう、なの?」
なんだかドキドキって伝染するの?なにかヘンだ。
「だからさ、その……俺にとって運命だって。逃したらダメだって。勝手に……思った」
視線が合う。すこし潤んだ瞳と。
「俺の方が年上なのに、甘えたくなるようなとこ。自信なさげなとこ。新しいマナに出会うたびに、惹かれてくのを止められなかった」