spiral

「じゃあ、こう言ったらハッキリすぎるかな。家庭内暴力」

暴力という言葉に、さすがに体が反応した。

「……ごめんね、本当はこの言い方で言いたくなかったんだ」

凌平さんがさりげなく自分を気遣ってくれてたみたい。

ううんと首を振って、次の言葉に備える。どんな言葉が続いても過剰反応しないように。

「まだ確定じゃないけど、そんな気がしてならないんだ。……ナオトのオヤジさん。マナの母親にそういった行為をしてる」

その瞬間、伊東さんの笑顔が頭に浮かんだ。

一緒に買い物に行こうという、嬉しそうな顔。それから、お店ではにかんでた顔。

一緒にご飯を食べた時の顔。時々みせる、父親の顔。

暴力をふるう時の顔が浮かばない。

「包帯してただけでそこまで飛躍するのはって思うかもね。けど、ナオトのオヤジさんには前科がある。捕まったという意味じゃなく、前に同じ事したってことね」

うんうんと頷く。話の腰を折ったらいけない気がして。

「事故のことをナオトが後悔する中で、オヤジさんにずいぶんと殴られてた。空手かなんかやってたらしい」

そんな感じがちっともしないな、あたしが知ってる伊東さんは。

「絶対とはいわない。でも、あれから会うことがなかったマナとマナの母親。それと、一時すっごい溺愛されてたはずなのに、急に会わなくなっただろ?オヤジさんに」

すこし思いだそうと努力してから、「多分」と返す。

程よい距離感に安心してたんだ、少しの間。

「マナの母親、何か言ってなかった?」

思いだそうとするけど、らしい会話が思い出せない。それよりも怖かったし。

「間違いだったらいい。決めつけたくないんだ、俺だって。ただなんて言うのか、こういう予感ってあるんだよ。俺もさ……俺なりにしてきた経験みたいなものが、呼ぶんだ」

「呼ぶ?」

不思議な言い回しだな。呼ぶって何?

「嫌な予感。第六感っての」

「なんだか意外とアナログですね」

拍子抜けした。

「結構な確率で当たるんだよ、これでも」

ふてくされたように、口を尖らせる。

「そうなんですか?」

思わず肩の力が抜けた。ダメだ、この人の前で緊張し続けるのって無理かも。

「ま、今回は外れてほしいけど、嫌な予感しかしないんだ」

クスクス笑ったあたしにそういった凌平さんの顔は、どこか遠くをみながら真剣な顔つきになっていく。

空気が変わった。

「だからさ、マナが見たくないもの、聞きたくないこと。どっちかを知ってしまいそうで」

そうは言ってくれても、行かないわけにはいかない。

お兄ちゃんが心配でもある。もしも聞けるなら、ママの怪我のことを伊東さんに聞きたい。

それが危険かもしれなくても、ママのことだから。

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