spiral

お父さんにそっくりねという言葉を何度も呟きながら、お母さんは凌平さんとの行為に及ぶ。

「女の子に興味がなかったわけじゃなかったんだ。仲間と遊ぶ方が楽しかった時期ってだけで」

口元を緩めながら、すこし楽しげに話す。その頃を思い出しているよう。

「ほんと、楽しかった。バカばっかやってて。で、気づけばなんの経験もせずにきて、最初が母親。高一で初体験って早いのか遅いのか、わかんないよな」

そこまで一気に話し、沈黙が続いた。

ゆっくりと顔つきが苦虫をかみつぶしたような表情に変わってく。

「…………お袋がさ、何度も言うんだ。『お願い、名前を呼んで』って」

声も顔も似てるとか。

「大きくなるにしたがって、自分が愛した人に似ていく息子。一体、どんな想いでみてたんだろうって思うよ」

自嘲的にすこし笑ってから、目じりに涙を溜めて。

「俺のを自分でさ、自分の中に収めて。どうしたらいいのか分からないでいる俺の上で、泣きながら腰振って。混乱したまま、お袋に言われるがままに動いたりして」

「……うん」

「軽蔑した?」

そう聞かれても、軽蔑って言葉すら浮かんでいなかった。

実際その時の凌平さんは、お母さんの願いを叶えることしか出来なかったはず。

「その直後に、死んだ。首吊って」

思わず息をつめた。凌平さんがあたしの手をキュッと握る。あたしも握り返した。

「さっきまであんなに熱かったはずのお袋の体がさ、嘘みたいに冷たくなって天井にブラ下がってんだ。横見たらティッシュのゴミだらけ。夢じゃなかったって思った。夢だったらよかったけど」

目を閉じる。閉じてもその光景が見えそうで、どこか怖い。

「お袋が手紙書いてて、たった一言『愛してるわ』だけで。俺へなのか、あの人へなのか。今でもわかんないままだよ」

目を開くと、凌平さんがやわらかく微笑んでいた。

「だから、かな。その……勃たないんだ、俺」

「たたない?」

何がだろう。

「女の子に対してそういう欲求が生まれないっていうか。体の関係にならないっていうより、なれない。キスは大好きなんだけど、そこまで進めない」

ふふっと笑い、「だからさ」と顔を耳元に近付けて囁く。

「マナともそうなれたらって思うけど、出来るかどうかわかんない。……こういう男って、ダメだよね」

告白されたことを最初から思い出し、噛み砕く。

お母さんとのことでか出来なくなったっていう締めくくり。あたしともそうなれたら?

「……え?」

今、何か浮かんだ。頭の中に映像が。

「やっ、違っ!」

頭をブンブン振る。そんなつもりないもん。そんなこと出来ないよ、あたしこそ。

「何?どうしちゃったの?マナって、ねぇ」

勝手に混乱してるあたしに、凌平さんの声は届いてる。けど、頭の中の映像が消えないから顔を見られない。

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