spiral
「もう……」
なんとも返しようがなくて、それしか言えなかった。
抱きしめる腕にまたちょっと力が入った。あったかい。
「気にしてるのって、誰のこと?」
囁く声。すこし考えてから、話してみる。
「ママのこと」
「ふぅん」
なんだか話しにくいな、やっぱり。
「話せばいいじゃん。俺に話しても、損ないだろ」
後頭部をそっと撫でてくれる凌平さん。
力が抜けてくる。笑わないかな?呆れないかな。なんて少し迷うけど、話してみようかな。
「ママがね、過去にあったことで悲しかったり。腹が立ったり。そんなのも含めて一緒にいるのかなって」
「ナオトのオヤジ?」
「……うん。何も知らないで一緒にいるのか違うのかって。もしも、その、凌平さんが思うようなことがあるなら、余計に知ってるのかなって」
あたしがそう話すと、凌平さんはまた「ふぅん」といい、黙ってしまった。
話したのは失敗だったのかな?なんて思った。
抱きしめられたままの沈黙って、思ったよりもキツイなぁ。
小さく息を吐きだした時、「あのさ」と凌平さんが切り出す。
「マナって、トコトン、だよね」
これって褒められてるのか違うのか分かりにくい。
「なんていうか、本当に好きなんだね。自分のお母さんのこと」
「ま、まあ」
反応を探りながらそれだけ返す。
「あれだけいろいろやられてても、それでも進もうとしてる」
「……やっぱり嫌かな、そういうのって。嫌いだって言い続けてる相手に、いつまでもくっつかれてるの」
「でもそれって相手によりけりじゃないかな」
「……なのかな」
頭の中をゆっくり整理していく。
ちゃんと考えを決めていかなきゃ、きっと揺らいでしまいそうで……怖い。
「それも確かめたいこと?」
凌平さんはなんでもお見通しなんだ。なんでだろ。変だ。
「……です」
当てられると逆に肯定しにくいや。
「そっか……ふぅん」
いいながら、髪を撫でつづけてくれる。いいな、これ。
抱き合ってると胸のあたりから、ほっこりとしてくる。
(ダメだ、眠くなってきた)
抱きしめられて、撫でられて。やわらかな口調が話してて。
そのぬくもりの中、気持ちいい眠りについた。
「俺の伝えたいことって、伝わったのかな」
っていいながら、凌平さんがそっと寝かしてくれたのは知らなかった。
本当にいい気持ちで眠ってた。