spiral
第四章~anywhere~
揺すられて気づいた。凌平さんの横で、寝てたんだということに。
「おはよ、マナ。ナオト来てるよ」
「ん、ん?今って何時ですか」
目をこする。まだ頭がハッキリしてない。
ぼんやりと見え始めた光景に、一瞬で覚醒する。
「な、なななっ」
凌平さんの顔が目の前にあるんだ。ふふとか笑いながら、あたしの顔をみてる。
「ぐっすりだったね。寝顔、とっても可愛かったな」
あたしの寝顔を見ている凌平さん……という光景がすぐさま浮かぶ。
凌平さんの肩の向こう、お兄ちゃんがいかにも機嫌悪そうにこっちを見てる。
「おっ、兄ちゃん!」
慌てて体を起こす。
「ごめん、時間過ぎてる?」
着替えを始めようとして、あれ?と振り向く。
ベッドから体をこちらに向けて、あたしの着替えを見てる人がいる。
「やだっ、凌平さん」
「んー?いいよ、そのまま着替えちゃっても」
楽しげに笑ってる。
「アホか」
部屋に入ってきて、凌平さんを引っ張ってくお兄ちゃん。
「時間は余裕あるから大丈夫だ。顔くらい洗えよ」
なんていかにもお兄ちゃんな言葉をかけて、部屋のドアを閉めていった。
「……ふぅ。ビックリした」
いろいろ驚いた。寝坊したかと思ったのもだし、凌平さんがいたのもだし。
「なにもしてないよね?……だいたい、その、凌平さん、出来ないし」
夕べ聞かされた話を思い出した。
この間伊東さんが選んでくれた服の中から、月命日だし黒っぽいのにしよう。
大きめのフリルが裾で揺れてるシャツに、濃い目のグレーのボックスプリーツのスカート。
これくらい地味でいいよね。
「あとは髪だけかな」
洗面所に向かう。
「お兄ちゃん、これくらいの色合いでいいかな?命日って服装どうしたらいいかわからなくって」
そう聞けば、「十分に可愛い」とかいうお兄ちゃん。
そんなことお兄ちゃんに言われたことないから、面喰って固まった。
「ちょっとナオト。彼女の前で、他の女の子褒めないでよ」
心さんが冗談めかしてそういった。
「そ、そうだよ。びっくりしたぁ」
あたしもごまかすように笑って、洗面所に向かった。
ムースをつけて、髪を直して、それから……っと。
鏡の前で再確認。
そうしてると、何かおかしいぞと思って振り向く。
「お兄ちゃん?」
洗面所の入り口そば。お兄ちゃんが立って、あたしの様子を見てた。
「え、と。時間?」
そう聞けば、「まだ余裕ある。コーヒーでも飲むか?」っていう。
「うん。じゃあ、飲むかな」
うまく笑えてないのがわかる。顔が強張ってる。
(お兄ちゃん、やっぱり何かおかしい)
凌平さんの予感が外れてほしいと、それだけを願った。