spiral
「生きていたかったら、あたしの言うこと聞きなさい。明日生活費を振り込んでやる。あたしに関係するすべてに関わらないで」
鬼の形相でそう一気にまくしたて、いなくなった。
ヨロヨロと起き上がり、蹴られたわき腹に手をあてた。
「はぁ、はぁ……、痛っ」
力がちょっと入っただけで痛む。
「電話、し……なきゃ」
関わるなと言われた。生きたきゃ言うことを聞けって。
「言わなきゃ」
ボロボロと涙が止めどなく流れていく。
あの日からこんなに流すことなかった涙が、堰を切ったかのようにこぼれていく。
涙が目の下の傷にしみる。
その痛みに、まだ生かされているんだって思えた。
「生き……た、い」
生きて、何かしたいことがあるわけじゃない。
それでもアキの分も生きていたい。
それだけだ。
前にもらっていたメモを探し、伊東さんの携帯に電話をかける。
数回コールしただけで、大きな声がした。
「わっ、ビックリしたよ。マナちゃん?マナちゃんだよね、この番号」
「あ、はい」
手が震えてる。心臓が飛び出そう。
「どうかしたの?こんな時間に」
そういわれ、時計をみると夜十時過ぎ。
「あ、ごめんなさい」
カタカタと震えが止まらない。太ももをつねってみたりするけど、変わるはずもない。
「何か相談?受験の話とかかな?嬉しいよ、初めての電話だね」
弾むような声。この相手にあたしは今から別れを告げなくてはいけない。
ゴクンと唾をのみ、「あの」と切り出す。
「うん、なにかな?」
緊張が高まって、声がひっくり返る。
「あた、し」
その声の恥ずかしさに黙ってしまう。
どうしようって言葉が頭の中をグルグル回ってる。
「……マナちゃん」
いつもの声がする。
「ゆっくりでいいよ。話していいよ」
優しい声。
その声の優しさが、今はあたしを辛くさせている。
「ふ……くっ」
涙がまた溢れる。喉が絞まって、上手く声が出てこない感覚。
「大丈夫だよ。待ってるから、ね?」
こんな風に自分の言葉を待っててくれた人がいたかな。