spiral
「ああ、君が娘さん?はじめまして」
「はじめまして、マナです」
そんなあたしの肩に手を置き、「そんなに緊張しなくていいよ」と伊東さんが微笑む。
「あ、はい」
でもドキドキはおさまらない。こういう場所は初めてだもの。
「香代さんはいないんだな、今回も」
「まあ体調が優れないから仕方がないんだ」
親戚の人に聞かれ、伊東さんが申し訳なさそうに返す。
あたしも自分のママのことだけに、申し訳なくなって頭を下げた。
「ママがすいません」って。
「マナちゃんはいいんだよ、そんなことしなくても」
「でも」
そう返せばいいこいいこしてきて、「そっちに座っててね」といなくなった。
(ダメだ。いろんな意味で緊張が終わらないや)
ソファーに腰かけてややすると、お坊さんがやってきた。
初めての経験。二人に恥をかかせないようにしなきゃって、正座もなんとか堪えた。
終わってからお手伝いをしようとしたら、足が痺れてお兄ちゃんが笑うし。
大きな失敗なくなんとか過ごし、最後にお見送り。
前の奥さんとお兄さんの話をたくさん聞いた。お兄ちゃんと伊東さんは、どこか嬉しそうに話に参加してた。
思い出したら辛くなるのかなって思いながら、横目で見てた。
そんなあたしに気づいた伊東さんが、もっとニッコリ笑う。無理してないかななんて心配になる。
本当によくある、いい家族だった。そういう印象を受けた。
料理が上手で、明るくて。お兄さんは夢があって、そんなお兄さんをお兄ちゃんはどこかで憧れていたみたいだった。
伊東さんはよくいる働きすぎのサラリーマン。不在の時でも、お父さんを尊敬することを忘れない。
それを支えていたのがお母さんの存在。
バランスが取れてて、伊東さんはとてもお母さんのことが好きだったんだって、みんなの話を聞いてて感じた。
そんな二人が事故で一瞬でいなくなった。どれだけの悲しみだったんだろう。
お兄ちゃんから聞いた話で想像できるレベルじゃないんだって、改めて思った。
「疲れただろ」
見送りを終えてドアを閉めた瞬間、お兄ちゃんが声をかけてくれた。
「ううん、平気」
お兄ちゃんが微笑むから、つられて笑って返した。
「あー、オヤジ。そんなことしなくっていいって」
お兄ちゃんがキッチンに方に慌てて入って行って、なにやら騒いでた。
「どうかしたの?お兄ちゃん」
みると伊東さんが三人分のお茶の用意をしてた。それとさっきは無かったケーキが二個。
「このケーキ、うちの店の近くのケーキ屋さんから買ってきた。新作らしいから、試食して感想聞かせてくれないかな」