spiral

それが相手にとって、裏切りになるかもとわかってても。それでも動いてた。

 伊東さんの目が変わる。あたしを見る目が、冷やかなものへと。

「痛いんだろう?」

どれがということなく問いを投げかけられる。

「あ、あの、その」

その目が怖くて、体が震えだしている。

自分がした裏切りの行為。その重さがわかるから余計に、伊東さんの視線が怖かった。

「マナ」

背後から呼ばれる。

「お兄ちゃん」

首だけ振り向くと、お兄ちゃんも顔を歪めてた。

「さんざん痛い思いしてきただろ、お前」

「でもだからって」

凌平さん、間違ってないよって言ってくれる?大丈夫?いいんだよね?って、心で呟く。

「そんなことして話しても、ママにわかってもらえないままです」

これも事実。認めたくないことばかりが事実だ。

ママを力任せに、自分の背中の方に押しやった。

「痛いでしょ、やめてよ」

チクチク刺さる、重なる拒絶の言葉。いくつ刺されば痛みを感じなくなるのかな。

「お兄ちゃん、そこを避けて」

ママを逃がす。この場でこれ以上は、ママと話すことができない。

本当に話したいことは、二人きりじゃなきゃダメ。二人きりは怖いけど、ダメだよ。

喉がカラカラ。唾、どこいったの?

息を飲み、とにかくママを護ることに集中しようとした。

すると、意外なことが起きる。

「好きにしたら?」

そういいお兄ちゃんが場所を開けた。ドアを塞ぐように立ってたのに。

「ただし、後悔する。それをわかってるんだよな」

「ナオ」

伊東さんがお兄ちゃんを静かに呼ぶ。チラッと伊東さんを見たものの、お兄ちゃんはすぐに体をズラした。

「ママ、逃げて」

ママのことを思ってした行動。逃げなきゃもっと悪化するかもって思った。

腕を掴んでドアの方に引っ張ろうとしたら、その手も弾かれた。

「触んないでよ」

最初の後悔。ママが嫌悪の顔を見せた瞬間に、後悔した。

今度はあたしの顔が歪む。

辛くないわけがない、こんなにも一方通行過ぎる思いが。

「あたしのこと嫌いでいいから……逃げて」

息苦しい思いを踏みつけるように、なんとか押し出した言葉。

「……いやよ」

間があってから、また拒絶。

「あたしは一馬さんのそばにいるの。たとえ、あんたを憎むことになってもね」

もう二つ目の後悔。

「でも、このままだと」

どういえばママを救えるの?という思いだけで、言葉を紡ぐ。

「ママに元気でいてほしいのに、叶わなくなるのは嫌なの」

言葉を選び伝われと願った言葉も、「エゴじゃない」の言葉で一蹴された。

< 138 / 221 >

この作品をシェア

pagetop