spiral
「いいわけないだろう。我慢してきたんだ、マナちゃんと一緒に堪えようと。堪えて陰で泣いて、それで何かが変わったのか」
顔の筋肉がうまく動かない。目を見開くだけしか、出来ない。
「こんなに想ってる娘がいるのに、置いていける。そんな母親を責めもしない。互いが互いをダメにしているに過ぎないと思わなかったのかい」
互いをダメにする関係?
「あたしが、ママを」
自分のせいだって言葉が、頭を占めていく。
「違うよ、マナちゃん。マナちゃんだけだって言っていないよ」
そう言ってくれる言葉が、頭の中を素通りしてく。あたしがママをダメにして、結果的に自分の首を絞めたんだって自分が問い詰めていく。自業自得だよと。
頭がキリキリと痛んだ。
自分を追い詰めた刹那、違う言葉が頭に響く。
(おかしくない?なにかが)
自分の頭の中の声に、さらに混乱を濃くする。
「……マナちゃん?」
伊東さんがあたしの顔を覗き込む。
「あたし」
伊東さんを見てるはずなのに、なんだか焦点が合わない。
誰を見てるの?あたしは今。
頭の中で考えろって声がする。冷静になれって。
今、見なきゃいけないのは、自分がしでかしたかもしれない罪じゃないんじゃないのか?って。
(じゃあ、何?何を見落としてるの?)
ボンヤリと伊東さんを見つめる。何かを見落としてるとするならば、自ずと対象は限られるはずだもの。
(伊東さんなのかな)
「……マナ?」
伊東さんが、自分を呼び捨てたのにも気づけずにいた。
伊東さん、って、いつも笑ってる。今日はあたしのために怒ってくれた。
家族が好きなのは、やっぱりあの事故のことがあったからだよね。前に聞いた伊東さんは、仕事ばっかりだったって言ってたし。
伊東さんは、乗り越えたのかな。お兄ちゃんは、まだどこか傷が残ってる様子。
完全には癒えないとしても、伊東さんよりはその場所にいただけに深いのかな。
「マナ?」
目の焦点が合わないままのあたしを、伊東さんの手が撫でた。
それに体が反応した。肩先が、ピクンって。
合わなかった焦点が、ゆっくりと合っていく。ナニカと重なっていく。
「……あ」
どれくらいの時間、放心してたのか。とても長い時間だった気がした。
(そうだよね、あの時、あんなこと言ってたのに。後から違うこと言ってた)
時計を横目に確認したら、あまり時間は経っていなかった。