spiral
声すら上げていないけど、きっとお父さんは泣いている。そう感じた。
お父さんの体温が上がっていく。堪えて、堪えて泣いてる。まだどこか我慢してるのかな。
「たくさん泣いて?お父さん」
そういいながら、あたしも泣いていた。お父さんが少しでも楽になれたなら、あたしも幸せだって思った瞬間、涙があふれてきた。
家族って、いいなって思えた瞬間でもあった。
時計の時報の鐘が鳴った。それを聴いてから、お父さんが体を離した。俯きながら、あたしから顔をそむけて。
あたしも顔を見ることができなかった。顔がぐしゃぐしゃなのが分かってたから。
「ごめんな」
お父さんのその声に、「ううん」とだけ返す。すこし砕けたような話し方が嬉しい。
「強がっててもどうしようもなかったのに、そうするしかなかった」
それが真意なんだろう。やっと聞けたんだとホッとしたあたしがいる。
「俺は立っていなきゃいけない。それだけだった。ナオトのせいにして逃げた時期もあった。けど、それは……やはり許されるべきことではなかったんだ」
背中を向けて、滔々と話し出す。遮るものがなくなったんだと感じる。
「望も一臣も、もっと生きたかっただろう。だからかな。マナをみてるとね、とても辛くて仕方がなかった」
その肩に、手を乗せる。それにポンポンと二回手を上下させてから、そのまま手を重ねた。
「辛くないのか、諦めないのか。どうしてそんなに信じてるんだ。そんな疑問を持ちながら、それでも動かずにはいられなかった。マナを何とかしたい。香代さんもなんとか救いたい。その気持ちだけで動いていたんだ。俺は」
本当に優しい人なんだ、お父さんて人は。優しい人の方が傷つきやすいのかななんて感じた。
「でもやっぱり結局何も出来なかったな、俺は。香代さんを救うこともできず、結果的にただ生活を守ってるだけで、彼女をどうにかすることは出来なかった。深い傷は癒えずに、マナを傷つけるだけの彼女になってしまった。俺は、無力だ」
重ねた手。その指先にかすかに力がこもったのを確かめて、あたしは精いっぱいの言葉を返す。
「お父さんがいたから、あたし……生きてるんだよ」
それが今あたしが生きてる事実だもの。それ以外の言葉がみつからない。
しばらく黙って、それから「そうか」とだけ返してくれた。
きっとこれからだと思う。ママのこともお父さん自身の心の問題も。
みんなみんな、ここからなんだって。