spiral
「これ飲め」
手渡されたジュース。イオン飲料だ、これ。
「嫌な予感して戻ってきたらこれかよ」
大きなため息をつくいお兄ちゃんに、「ごめんなさい」と小さく呟く。
「いや。嫌な予感は、本当は別のところにだから」
と、不思議な事を口にした。
「他って」
頭痛がする頭を押さえながら、ゆっくりと体を起こす。
「ほら、タオルちゃんと巻けよ」
「あ」
あまりにもお兄ちゃんが普通にしてるから、自分の格好を気にするのが遅れた。
真っ赤になってタオルを巻き、俯いた。
「とにかく落ち着いたら着替えろ。俺はまた出かけるから」
どうやら服が濡れたらしい。背中を見せ、シャツを着替えだした。
思わず目をそむける。恥ずかしくてたまらない。自分の格好の方が恥ずかしさでは上なのにね。
「今から心が来る。心と一緒にいろ、いいな」
「どこに行くの」
タオル姿のままでお兄ちゃんに腕を伸ばすけど、届く前に部屋を出て行った。
別のところにあるって言ってたよね、さっき。嫌な予感が。
「何のことだろう」
クラクラしつつ、なんとか着替えをする。やっと髪をタオルドライ出来る状態になったころに、心さんが来た。
「ナオト出かけたでしょ」
心さんはいつものまんまだ。妙に安心する。
「うん。なんで出かけたのか教えてくれないまま、いなくなった」
途方に暮れていると素直に打ち明ける。
「マナ」
あたしを呼びながら、横に腰かける心さん。
「さっきね、ナオトのお父さんから連絡があったの」
そう切り出して始まった話で、あたしは引いたはずの汗をまた掻く。
「ほんと?」
聞き返したその話は、ママが消えたという話。
油断してたとお父さんが言ったらしい。お兄ちゃんもママがいなくなるとか思っていなかったし。
「実はね、ナオトのお父さん。かなり傷めつけてたようだったの、マナのお母さんを。逃げることなんか出来ないくらい、精神的にもね」
凌平さんの予感は本当に合ってたんだ。お父さんが話してくれたのは、かなり柔らかい表現でだったんだ。
「マナには話したくなかったみたいなの、ナオト。お父さんと過去に暴力的な問題があった時に、ナオト自身も怖い思いしたから、怖かったみたいで」
「そ、か」
お兄ちゃんは、嘘つくしかなかったんだ。そっか……。あたしを騙そうと思ってっていうんじゃなかったんだ。