spiral
第五章~loved one~
「原稿を各自確認しておくように」
「はい」
発表会担当の先生の声が教室に響く。返事をした中に、あたしと心さん。
返事をしてから心さんの方を見ると、パチンとウインクをされた。あたしも笑顔で返した。
「発表15分前には、ここの教室を出る。それまでは各自あまり動き回らないように。解散」
その声で散り散りになっていく発表者。
「いよいよね、マナ」
気づけば隣に心さんが来ていた。
「うん、こういうの初めてだし、内容が内容だし」
半分愚痴というか、学校の方ですこしだけこういう環境下にあるということを知っててほしいと安易に思ってしまったため、書いた作文が選ばれてしまった。
発表会が盛り上がりそうな内容だとかいう理由で。
どうせ選ばれないなんて思ってたのが、浅はかだった。
「書いたあたしが悪いんだよ、きっと」
そういうと頭を撫でながら、「半分はそうかもね」と微笑む。
「残り半分は、バカな大人のせいよ。本当に大人ってバカバカしいことが好きよね。子供が傷つくなんて思わない。自分は傷つかないんだから、どうでもいいんでしょうけど」
ため息まじりに、心さんがそう呟いた。
「お兄ちゃん、どこ行ったのかな」
廊下に出て遠くを眺めてみても、当たり前のようにお兄ちゃんがいない。
学園祭に参加しつつも、ママが来ていないか警戒してくれている。
それは、お父さんも一緒。
「なんだか二人に悪いな」
二人はこの学校での初めての学園祭を満喫できそうもない。
「いいんじゃない?好きでやってるんだし」
苦笑いして、あたしを撫でてくれる。
「甘えてもいいんだろうか、こんなにも」
家族が家族に甘える。それがどこからどこまでなのか、ボーダーがイマイチわからない。
「甘えちゃえば?ついでに俺にも」
いつからいたのか、凌平さんが当たり前のように横に立ってた。
「わっ!お、驚いたぁ」
「あはは、大成功?これって。おはよ、マナ」
さりげなく肩を抱かれて、その回された腕に視線を落とし、それから心さんに視線を移す。
「……あのね、あたしもいること忘れてない?凌平くん」
「あ、忘れてた。二人の世界なんだとばかり」
この二人のこういう距離感もいいな。初めて会った時からこんな感じだったみたいだし。
「ん?何?」
羨ましいなって思ってみてたら、二人同時にあたしをみてた。
「う、ううん。なんでもない」
顔が整った二人に見つめられたら、さすがに視線をそらさずにはいられない。
「で、どうするの?これからの時間。あまり動き回ると、二人の努力が水泡に帰すわよ」
「あー」
そうだよね。学園祭を楽しむどころじゃないんだっけ、そういえば。