spiral
「今、原稿用紙を破きましたが、今から話すことはほぼ変わりません。
作文コンクールなのに、ちょっと趣旨が変わってしまいますが、優勝を望んでいるわけではないので、ただ……聞いていただくだけで結構です」
前ふりをして、頭を一度下げた
「絆、というテーマ。それは、誰にでもあるのかもしれません。
けど、目をつぶっていたり、自分の思いを言葉にして伝える勇気を出さずにいれば見出せないことを、私は最近になって知りました」
痛む傷口に手をあてる。ジクジク痛む傷は、自分が生きている証。
そっと手を離して、会場のどこかにママがいたらと願った。
「妹がいました。そして、今はいません。私が7歳の時に、私の腕の中で死んでしまいました。妹はまだわずか2歳でした」
そう。あたしもアキも本当に幼かった。アキは可愛い妹だった。
「夜の仕事へ行く母。その母の店に飲みに行った父。
体調のすぐれない妹を私に預け、何も気にすることなく出かけてしまいました。
妹の具合が悪くなっても、何も出来なかった私。
泣きたい気持ちを抱えながら両親に連絡をし、妹が死んでしまったことを嫌でも認めなければならない日々が始まりを告げました」
目を閉じると思い出せる、冷たく寒い毎日。胸が今でも痛い。
あの頃のあたしを哀れんで痛いんじゃない。ただ、悲しいだけ。
「7歳の私を責め続ける両親に、とにかく愛されたくって自分だけが悪いわけじゃないとどこかで思っていても、その思いを隠し続け、小さくなって生きました」
あの日から愛されたい気持ちが強くなった。それは間違いない。
あれがキッカケでもあったんだ。
「一年後、父だけは私が犯したかもしれない罪を許すといいましたが、母は常に私を責め、自分には非がないと言いました。
中2のある日に、相談もなく離婚を報告され。中3になったある日、母がいなくなりました。たった一枚のメモを、ドレッサーに貼りつけただけで。
メモには再婚したこと、それとカードにお金を振り込むからということだけ。私は、置いていかれました」
あのメモ、まだあたしの心の中に残ってる。
たった一枚の紙切れが、あたしの人生の分岐点になった。なんて、大げさかな。
「それから学校に内緒で一人で暮らしました。食事を減らし、楽しみも何も考えることなく、生きるためだけの毎日。
生きるって普通のことなのに、こんなにも難しいんだって感じました」