spiral

「普通に笑って、普通に泣いて、普通に怒って。当たり前に口にする“おはよう”や“おやすみ”の言葉。

そういう当たり前のありきたりのことを、とても素敵で大切だって、いつか子供が生まれたら教えられる……そんな親に、私は……なり、たぃ」

言えた。話しながら、自分の胸の奥にあった思いを、整理できた。……吐き出せた。

「時間が超過したかもしれません。お時間をいただき、ありがとう……ござ、いました」

そこまで言って頭を下げた瞬間、体から力が抜けた。

(あ、倒れる)

呑気にそんなことを思いつつ、引力に任せて床へと落ちていくのを覚悟していた。

「バカ妹」

お兄ちゃんの声。それと、懐かしいあの匂い。お兄ちゃんの汗の匂い。

お兄ちゃんの腕の中に抱かれて、あたしは痛みを回避した。ホッとした刹那、意識が飛んだ。

こんなに痛くて辛いのに、自分が笑ってるのがわかった。幸せそうに笑ってるに違いないって。

 目が覚めると、病室だった。保健室じゃないと気づいたのは、見慣れない白衣姿の人が立ってたから。

「意識が戻りました」

看護師さんの声に「わかってる」と、白衣の人が病室を出ていった。

「あのここって」

看護師さんに聞けば「病院よ。腕の傷は思ったよりは浅かったから、ちょっと縫っただけよ」と教えてくれた。

そうか。結局倒れちゃったんだっけ。

「はあ」

大きくため息をつけば「ご家族呼んでくるわね」といい、看護師さんもいなくなった。

 程なくして見知った顔が並ぶ。

「よかったわね、無事で」

心さんがニッコリ笑う。それに頷いて返事をする。

「万が一輸血が必要になったら、俺がって思ってたんだけどね」

凌平さんがそういうと、「そんな出血量、みたくないわよ」と心さんが凌平さんを小突いた。

「あれ、お兄ちゃんは?」

凌平さんがいる。心さんもいる。なのに、お兄ちゃんがいない。お父さんも。

「病院の手続きか何かに行ってるのかな、二人とも」

そう二人に話しかけてみても、なんだかバツが悪そうな顔しかしない。

「どうかしたの?」

そう聞くと、心さんと凌平さんがアイコンタクトをして頷きあう。そして心さんが口を開いた。

「聞いてほしいことがあるの」

真剣な目。その真剣さに、息を飲んだ。コクンと頷くと「あんたの母親のことよ」と続けた。

「ママ?」

意外だった。心さんからママの話題が出るなんて。

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